氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
朔の姿を見るや否や、反抗勢力の妖たちは徒党を組んで向かって来た。

だが所詮は烏合の衆であり、一糸乱れぬ統制の取れる百鬼たちとは訳が違う。

まず目に留まるは美しき頭の朔であり、そして隣に立つ氷雨は反抗勢力たちの中でも名の知れた男だった。

あの偏屈で冷徹冷酷無慈悲の先代十六夜の代から側近だった男――一筋縄ではいかないのは誰もが知っている。


「来た来た!」


銀と焔は朔の後方に控えて打ち損じを引き受けた。

約百を超す反抗勢力たちは朔目掛けて突っ込んできたが、朔と氷雨はもしかしたらここで討ち取れるかもしれないという淡い期待を悉くへし折っていった。


「お師匠様、すごい…っ」


「雪男は僕たち兄弟の師だからね。僕らも彼がへまをする想像すらしてないし、雪男も今まで敗けたことがないらしいから大丈夫だよ」


氷雨が雪月花を振り上げる度に六角形の氷の結晶が舞い散り、斬られた敵は血しぶきを上げることなく傷口を瞬時に凍らされて絶命していった。

生き残った者が居たとしても雪月花が生み出す幻に心囚われて直立したままで、なすがまま。

そして朔は返り血ひとつ浴びることなく華麗に避けて、まるで舞っているように見えた。

戦闘で目をぎらつかせている氷雨は普段とは違い、もっと近くで見たいと思った朧は前のめりになって氷雨に近付いて行った。


「朧、危ないから駄目だよ」


「大丈夫…大丈夫だからもうちょっと近くに…」


その肌の白さ、その真っ青な髪と目の美しさよ――

早くこの男の子を産みたい――

子宮が疼き、腹を押さえた。
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