氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
産湯後の赤子は透き通るような色白でいて、真っ青な目と髪の色が鮮やかで、代わる代わる抱っこされて瞬きもせず皆の顔を見つめていた。


「しかしここまで雪男の特性が強く出るとは」


「角がここにあるっぽいんだけど出てないね。力はどっちに似るんだろう?」


「恐らく両方受け継いでいるだろう。雪男雪女は本来非力で戦闘向きではないが、鬼族由来の腕力を備えた雪男…うむ、やはり最強と言えるだろう」


皆に褒められて鼻高々の氷雨と朧は、小さな手で指を握ってくる我が子から目を背けることができず、でれでれしていた。


「雪ちゃん、真名はもう決めたの?」


「や、男か女かも分からなかったからあまり考えてなかったんだけど…でも…」


そこでようやく顔を上げた氷雨は庭で静かに雪が逆巻いているのを見て目を細めた。

数えきれないほどの雪の結晶がきらきら輝いていて、それで――閃いた。


「氷輪…ってどうかな」


「氷輪…素敵な響き。意味はあるんですか?」


「氷みたく冷たく輝く月って意味。ほら、鬼頭家の者は月にちなんだ真名だろ?」


我が子が産まれたら月にちなんだ名を付けようとは思っていた。

天に輝く月はまさに冴え冴えとしていて美しく、我が子にも…氷輪にもそんな美しく強い男に育ってほしいと願いながら。


「ん、いい真名だ」


朔に褒められ、そしてそれまで黙っていた十六夜もまた頷いて、それで決まった。


「正式な真名が決まったとあれば近日中に命名式を行おう。私が執り行うということでいいね?」


「もちろん。晴明、頼む」


小さな口を開けて欠伸をした氷輪をまたしばらく皆で愛でて、親子三人を部屋に残して去った後、氷雨は朧の肩を抱いて労を労った。


「ありがとな朧。こんな可愛い子を産んでくれて」


「私こそ…。こんな可愛い赤ちゃんをありがとう、氷雨さん」


冷たく輝く美しい月を見上げて健やかな成長を願った。
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