氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
孫を猫かわいがりしたい息吹たちにとって、ひとつの懸念があった。

朧は鬼と人の間に産まれた半妖だが、氷雨とその朧との間に産まれた氷輪が雪男の能力を持っているとしたら――素手で触ることはできない。

今までそれが心配で素手で触っていなかったが、氷雨と朧は親だから当然触ることができるし、その問題に気付いていないようだった。


「あの、雪ちゃん。輪ちゃんだけど…触っても大丈夫?」


「え?いつも触ってんじゃん」


「ううん、素手では触ってないよ、まだ…」


そこではっとした氷雨は、朧の指を吸って楽しそうにしている氷輪を受け取ると、頬をぷにっと突いた。


「純粋な雪男じゃないし…大丈夫とは思うけど」


「でも大丈夫じゃなかった時輪ちゃんが火傷しちゃうでしょ?それはいやなの」


悶々。

ちょうど遊びに来ていた晴明が通りがかると、三人は大声を上げて呼び止めて晴明の目を丸くさせていた。


「私に何か用かな?」


「お祖父様、輪ちゃんを素手で触りましたか?」


「触ったとも。氷輪を取り上げたのは私だからねえ」


「ど、どうでした?」


「どうとは?」


「輪ちゃんの肌…冷たかったですか?凍傷は?火傷は?」


それで何を言わんとしているのか理解した晴明は、部屋に入って袖を払うと、人差し指を伸ばして氷輪の紅葉のような手を握らせた。


「ほら、なんともない。この子は人肌でも平気な見た目雪男だよ。先が思いやられるねえ」


「なんだよ先が思いやられるって」


「赤子の時からこのように容姿が整っていれば将来どうなるか誰でも分かるだろう。さらに人肌が平気ともなれば…ああ怖い怖い」


氷雨と朧は顔を見合わせると、氷輪を覗き込んだ。

見た目は氷雨そっくりで人肌に触れられる――


「輪ちゃんが氷雨さんに似て女遊びしませんように」


はははと苦笑いした氷雨とひと睨みして晴明に笑われた。
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