氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
天から優しい風が降り注いでいた。
頬に触れるそれは温かいけれど、時折何者かの笑い声が聞こえて耳をくすぐる。
氷雨はすでにその正体を知っていたが、敢えて話しかけることなく自然のままにしていた。
「お師匠様、輪ちゃんがまた女の子に告白されたんだって」
「は?あいつまさかほいほい受け入れて女遊びしてるんじゃ…」
「お師匠様じゃないんだからやめて下さい輪ちゃんはそんな子じゃありません」
つんとそっぽを向かれて刺々しく責められた氷雨は、乳飲み子を膝の上であやしている愛妻の肩を抱き寄せた。
「嫁さん貰って一回も女遊びなんかしてないっつうの。それよか俺そろそろ裏方に回されそうなんだけど、朧なんとかして…」
常に戦線に立っていたい氷雨が泣きつくと、朧はにこっと笑って氷雨の肩を指で突いた。
「朔兄様に直接言ったらいいじゃないですか」
「いやだ!絶対反対される!だからお前から説得を…」
「もう百鬼夜行は諦めて輪ちゃんに譲ってあげて下さい。いつまでも独り立ちできないじゃないですか」
朧に叱られた氷雨は、家族が随分増えて明るい笑い声に包まれている部屋の方に目を遣った。
確かに守るべきものが増えて危険を伴うものには随分慎重になった。
裏方と言えば――現在如月が取り仕切っているが、あちらも家族が増えて大変な様子。
うーんと唸った氷雨だったが、そこに朔がやって来て縋るような目で朧を見たが、完全無視されて肩を落とした。
「何か言いたそうだな」
「え…あ…まあ、その…なんだ…」
「順を追って話せ」
朔もまた子に代を譲って現在は隠居暮らし。
氷雨邸に足繁く通っては幼子たちと遊んでやったり氷雨にちょっかいを出し続けていた。
「あの…その…」
ごにょごにょ。
ごにょり続ける氷雨を朔も完全無視して朧と談笑。
冷や汗が噴き出ていた。
頬に触れるそれは温かいけれど、時折何者かの笑い声が聞こえて耳をくすぐる。
氷雨はすでにその正体を知っていたが、敢えて話しかけることなく自然のままにしていた。
「お師匠様、輪ちゃんがまた女の子に告白されたんだって」
「は?あいつまさかほいほい受け入れて女遊びしてるんじゃ…」
「お師匠様じゃないんだからやめて下さい輪ちゃんはそんな子じゃありません」
つんとそっぽを向かれて刺々しく責められた氷雨は、乳飲み子を膝の上であやしている愛妻の肩を抱き寄せた。
「嫁さん貰って一回も女遊びなんかしてないっつうの。それよか俺そろそろ裏方に回されそうなんだけど、朧なんとかして…」
常に戦線に立っていたい氷雨が泣きつくと、朧はにこっと笑って氷雨の肩を指で突いた。
「朔兄様に直接言ったらいいじゃないですか」
「いやだ!絶対反対される!だからお前から説得を…」
「もう百鬼夜行は諦めて輪ちゃんに譲ってあげて下さい。いつまでも独り立ちできないじゃないですか」
朧に叱られた氷雨は、家族が随分増えて明るい笑い声に包まれている部屋の方に目を遣った。
確かに守るべきものが増えて危険を伴うものには随分慎重になった。
裏方と言えば――現在如月が取り仕切っているが、あちらも家族が増えて大変な様子。
うーんと唸った氷雨だったが、そこに朔がやって来て縋るような目で朧を見たが、完全無視されて肩を落とした。
「何か言いたそうだな」
「え…あ…まあ、その…なんだ…」
「順を追って話せ」
朔もまた子に代を譲って現在は隠居暮らし。
氷雨邸に足繁く通っては幼子たちと遊んでやったり氷雨にちょっかいを出し続けていた。
「あの…その…」
ごにょごにょ。
ごにょり続ける氷雨を朔も完全無視して朧と談笑。
冷や汗が噴き出ていた。