氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
如月が急にどたばたし始めたため、何事かと氷雨に事情を聞きに行った朧は、寝転んだままひたすらにやにやしている氷雨を見つけて傍に座った。


「氷雨さん?何かあったんですか?」


「え?いや、俺は近日中に晴明が来るかもって話をしただけ」


…そんな話で何故如月が慌てまくっているのか訳が分からなかった朧だったが――氷雨と如月がとても親しいということだけはよく伝わってきた。

いくら姉とはいえ嫉妬心はどうしようもなく、むっつり黙り込んでいると、すぐさま見抜かれて手を引っ張られた。


「なんなの?嫉妬するのはもうやめたんじゃなかったっけ?」


「…そんなにすぐはやめれません。氷雨さんと如月姉様…とっても仲良しだから…だから…」


「あのさあ、俺にとって如月はなんていうか…弟?みたいな。正直女と思って接したことなんかないし、あいつが小さい頃に離れたから…」


「私のことだって最初は女と思ってなかったんでしょ?」


「ははっ、だって息吹の腹の中に居た頃から知ってるんだぞ。赤子のお前を女として見てたら俺…ほんとにお稚児趣味じゃん。…あ、自分で言ってちょっと傷ついた…」


ぶつぶつ言いながら片手で顔を覆った氷雨にぴったり寄り添った朧は、胸元から覗く引き締まりつつ盛り上がった胸筋に頬ずりをして潤んだ目で氷雨を見つめた。


「いつから私を女として認めてくれたんですか?」


「んー、ちょっと離れた時期があったろ?あん時にぐっと成長したお前にすっげえ驚いて…それで……なんか恥ずかしいからもうやめてくんない?」


頭を優しく撫でてくれた氷雨の手つきと頬に感じる温かさ――独占欲が満足した朧は、氷雨の美しい鎖骨をかりっと甘噛みしてむくりと起き上がった。


「さっき宿屋で可愛がってもらいましたけど、私全然氷雨さんが足りてないから…時々こうして襲いに来ますね」


「お?おお…どんと来い」


てへっと笑った朧が部屋を去ると、氷雨、天上を見ながらぼそり。


「嫁さんが若いと色々大変だな…。頑張れ、俺」


そう言いつつも、俄然色々やる気満々。
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