氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
多くの女中が居るということは、所帯を持っている者も当然居る。
どうやら如月は屋敷内を自由に歩き回ることを許しているらしく――朧はこの日はじめて、赤子を抱いている女中を見つけて興奮した。
「わー、赤ちゃんだ!」
――突然声を上げて猛然と近付いてきた朧に驚いた女中は、すぐさま廊下の隅に座って赤子を抱いたまま頭を下げた。
格式高い鬼頭家の者と口を利くことなど世間体で言えば到底許されず、おろおろする女中の前に座った朧は、背中を撫でて顔を覗き込んだ。
「顔を上げて下さい。赤ちゃん可愛いですね、男の子?女の子?」
「お、女子にございます」
「かーわいいっ。あの、お庭に出て良かったらよく見せてもらえませんか?できたら抱っこも…」
鼻息荒く迫る朧にさらにおろおろしてしまった女中とのやりとりを実は見ていた氷雨は、ぽんと頭を叩いて諭した。
「こら、そんなぐいぐい迫るな。怖がってるだろ」
はっとした朧は、女中よりも深く頭を下げて謝り、こちらもおろおろ。
「あの、怖がらせるつもりじゃ…」
「存じております。ふふ、はいどうぞ」
まだ若く可愛らしい顔をした女中がそっと赤子を差し出すと、朧は一瞬躊躇しながらも腕に抱いて――目を輝かせた。
「可愛い…」
「ん、可愛いな。良かったら少し預かってもいいか?俺子守り得意だから任せてほしいんだけど」
「で、ですが…」
「そうしてやりなさい。お前はその間ゆっくり心身を休めるといい。夜泣きで寝れてないんだろう?」
事態を見守っていた如月にそう声を掛けられた女中の目の下には隈があり、長い間躊躇していたが――朧の嬉しそうな顔と氷雨の自信満々な言葉に甘える選択をして、頭を下げた。
「では…この子をよろしくお願いします」
「おう、任された」
朧は末っ子なため、こうして赤子をあやしたことがない。
氷雨はこれをいい機会だと思い、手足をうにうに動かしている赤子の髪を撫でた。
どうやら如月は屋敷内を自由に歩き回ることを許しているらしく――朧はこの日はじめて、赤子を抱いている女中を見つけて興奮した。
「わー、赤ちゃんだ!」
――突然声を上げて猛然と近付いてきた朧に驚いた女中は、すぐさま廊下の隅に座って赤子を抱いたまま頭を下げた。
格式高い鬼頭家の者と口を利くことなど世間体で言えば到底許されず、おろおろする女中の前に座った朧は、背中を撫でて顔を覗き込んだ。
「顔を上げて下さい。赤ちゃん可愛いですね、男の子?女の子?」
「お、女子にございます」
「かーわいいっ。あの、お庭に出て良かったらよく見せてもらえませんか?できたら抱っこも…」
鼻息荒く迫る朧にさらにおろおろしてしまった女中とのやりとりを実は見ていた氷雨は、ぽんと頭を叩いて諭した。
「こら、そんなぐいぐい迫るな。怖がってるだろ」
はっとした朧は、女中よりも深く頭を下げて謝り、こちらもおろおろ。
「あの、怖がらせるつもりじゃ…」
「存じております。ふふ、はいどうぞ」
まだ若く可愛らしい顔をした女中がそっと赤子を差し出すと、朧は一瞬躊躇しながらも腕に抱いて――目を輝かせた。
「可愛い…」
「ん、可愛いな。良かったら少し預かってもいいか?俺子守り得意だから任せてほしいんだけど」
「で、ですが…」
「そうしてやりなさい。お前はその間ゆっくり心身を休めるといい。夜泣きで寝れてないんだろう?」
事態を見守っていた如月にそう声を掛けられた女中の目の下には隈があり、長い間躊躇していたが――朧の嬉しそうな顔と氷雨の自信満々な言葉に甘える選択をして、頭を下げた。
「では…この子をよろしくお願いします」
「おう、任された」
朧は末っ子なため、こうして赤子をあやしたことがない。
氷雨はこれをいい機会だと思い、手足をうにうに動かしている赤子の髪を撫でた。