氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
赤子の髪はふわふわしていて、柔らかくて、まるで体重がないかのように軽かった。

縁側に座って指を吸っている赤子を飽きもせず見ていた朧は、一緒になって赤子の指を握ったりしている氷雨と顔を見合わせて笑った。


「可愛くてどうにかなっちゃいそう」


「俺たちにもいずれできるって」


「赤ちゃんがお腹の中に十月十日も居てくれるなんて信じられないです。きっともっと愛しくなっちゃって…あっ」


指を吸っていた赤子の目がみるみる潤んだと同時に泣き出すと、どう対処していいのか分からず狼狽えた朧の腕から赤子を受け取った氷雨は、立ち上がって身体をゆっくり揺らしながらあやした。


「なんだどうしたー?眠たいんだな?いいぞ寝ても。母ちゃんをもうちょっと休ませてやってくれな」


しばらくしゃくり上げていた赤子だったが――徐々に目がとろんとしてくると、そのまますやすや。

驚いた朧は、背伸びして赤子の顔を覗き込んで目を丸くした。


「どうして眠たいって分かったの!?」


「んー、勘?お前たちの兄ちゃんや姉ちゃんを何人育て上げたと思ってんだ?もう大体分かっちゃうんだよなー。赤子って喋れないだろ?だから注意深く見てたら分かるようになった」


――この男、本当になんでもできる。

改めて恐れ入った朧は、氷雨から赤子を受け取って同じようにゆっくり身体を揺らしてあやしてやった。

赤子はすやすや寝ていて起きる気配がなく、子への憧憬がますます募ってどうしようもなくなった。


「私も早く赤ちゃん…」


呟いた朧の頭を撫でた氷雨は楽観的にからから笑い、朧の不安をかき消した。


「時々こうして借りるか。母親を休ませることができるし、お前も練習になるだろ?」


「!はい!お願いしてみます!」


弾ける笑顔に朔や如月の頬も緩み、朧はまた飽きもせず赤子の顔を眺め続けた。
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