恋愛初心者です、お手柔らかに?
ガチャ

え…

静まり返った部屋に、ドアをひらく音が響いた。

「だ、誰?」

「俺です…齋藤です」

齋藤です、と小さな声がドアの向こうから聞こえた。姿が見えず声だけが聞こえていた。

「さ、齋藤君?いるなら入ってきなさいよ!怖いじゃない」

どうして齋藤君が、入って来ないのか、私にはこの時分かっていなかった。
ドアの向こうにいる齋藤君に呼びかけていた。

「怒ってませんか?永山さん…」

「は?何言ってんのよ。そう言われる方が怒るわよ!入ってきなさい」

怒ってませんか?って、今さらなにを言ってるのか、私に仕事回したのあなたじゃないの。ほんとに…もう。

自分のデスクから顔を上げてドアの方を見ると、恐る恐る入ってくる斎藤君が目に入った。

「す、すみませんでした。仕事を無理に頼んじゃって…怒ってますよね?」

うっ…
上目遣いに私を射抜くのはやめてくれ。
齋藤君のその姿はレアすぎるから…

「いいのよ、怒ってないから。仕事でしょ。でも、齋藤君飲み会じゃなかったの?白石さん達は?もうお開き…って訳ないよね?」

そう言いながら時計を見ると、まだ8時を過ぎたところだった、

申し訳なさそうに、齋藤君は口を開いた。

「まだ皆さん飲んでますよ」

「あ、やっぱり?明日土曜日だしね。そうよね…。じゃあ、私ももうすぐ終わるから合流しようかな…なんて」

って、冗談のつもりだった。
行くつもりなんてさらさらなかったし…、うん。

そのはずだった。

バンッ!

「行かせませんよ」

「え?」

齋藤君が、私の机を激しく叩いた。







< 28 / 125 >

この作品をシェア

pagetop