剛力家の三兄弟
真奈美の“帰ろ”と言う提案に、異論を唱える禎憲を置いて、真奈美は、出口へ向かうアーケードへ入って行く。
禎憲は慌てて後を追い、真奈美の腕を掴んだその時、
『ドーン!』
『ぅっわぁー!きれいー』
背後からの歓喜と響めきに、真奈美の足は止まった。足を止めた真奈美を、禎憲は引き寄せ抱きしめると、夜空に広がる色とりどりのヒカリを背後に真奈美へキスをした。
え?
突然の事で、何が起こってるのか分からない真奈美の耳には全ての音は消え、自分の鼓動だけが響いていた。
唇が離れると同時に、ふたりの視線が絡み合う。
「・・禎憲さん?」
真奈美の呼び掛けに、禎憲は何も答えず、真奈美の口に人差し指を当て、“もう少し観ていたい” と言った。
何を…
「綺麗な花火だ」
「えーと…花火なら…後ろです」
「真奈美の瞳に映るのが観たい」
え?…
初めて名前を呼ばれ、真奈美の鼓動は早くなる。
まるで、警鐘の様に。
暫く見つめられていた真奈美だが、流石に恥ずかしくなり、顔を背けると再び抱きしめられ、耳元で、“好きだ” と囁かれた。
「・・・・」
今の…なに?
“好き”って言った?
いや、きっと聞き間違いだ。
禎憲の胸を押し離れ様とするが、禎憲の腕はそれを許さないらしく、更に、力が強くなった。
「離して下さい」
「やだ」
「・・・・」
やだって‥‥
子供じゃ無いんだから…
「離してくれないなら、叫びますよ?」
「今叫んで、どれだけの人が助けてくれるかな?」
ふたりの周りの来場者は、夜空に打ち上がる大輪に目を奪われている。多少の声を上げても気にも止めないだろう。
「じゃ、良いです。自分の事は自分でなんとかします!」
「いってぇー!バカヤロー、マジ痛ぇわ!」
真奈美は、禎憲の脛を思いっきりヒールの踵で蹴って、禎憲が腕を解いた時に、直ぐさま禎憲から離れた。
「さぁ帰りますよ?」
「待ってくれ…マジで無理」
屈みこんで立ち上がれない禎憲へ、仕方なく真奈美が手を差し出すと、痛すぎて立てないという。