剛力家の三兄弟

ミシミシと、廊下を誰かが歩いてくる音がした。
朝日に照らされ障子に映る影は、声を聞かなくても誰だか分かる。

…禎憲さん

「真奈美、開けても良いか?」

「…どうぞ」

障子を開けると、真奈美が荷物を纏めている事に、禎憲はショックを受けていた。

「本当にここ出て行くのか?」

「はい。これ以上ご迷惑掛けれませんから…」

真奈美の言葉に、禎憲は真奈美の側に腰を下ろし、そして、「何も迷惑かけてないだろ?それに、誰も真奈美を迷惑だなんて思ってない!」と言って、真奈美の両肩を掴んだ。

「実際、禎憲さんに迷惑かけてます。」

「俺は真奈美が盗んだなんて思ってない!」

「・・有難うございます。信じてくれて…でも、私がやってないって証拠有りませんから」

「有る!」

「え?」

「証拠は、俺が真奈美を信じてるって事だ!」

「禎憲さんの気持ちは嬉しいです。でも…私がこのままいると、禎憲さんにもっと迷惑かけます。お店のお客様にだって・・それだけじゃない明憲さんや憲剛さんにも、窃盗疑惑のある人間を側に置いていては・・それに、法子さんや、旦那様にもご迷惑かける事になります。だから、私は出て行かないと行けないんです!」

「…分かった。じゃ、昨日までの給料用意しておくから、後で店まで取りに来てくれるか?」

「…はい」
これだけ迷惑かけたのだから、本来なら受け取るべきじゃないのかもしれない。
でも、次の仕事も決まっていない以上、そんな綺麗事は言っていられない…

禎憲は、憲剛にも伝えておくと言って、部屋を出て行った。




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