剛力家の三兄弟

真奈美にとって、男性の車の助手席は特別な意味があった。
以前真奈美が付き合っていた弘樹に、助手席は、恋人の指定席だから、友達だろうと絶対真奈美以外は乗せない。と、言われていたからだ。
だが真奈美は、弘樹の一時的の恋人であり、運命の相手ではなかった。

「私…後ろに」

「後ろは私達夫婦が乗るから、あなたは前になりなさい」と言って、当主夫妻は後部座席に乗り込んだ。

運転席の憲剛は、右手はハンドルを握り、左手は、助手席に座る真奈美の膝の上の手に重ねた。

憲剛さん?

「あの時と逆だな?」

「え?」

「あの時は、あんたが俺の腕を掴んで、俺が振り払おうとした。
だが、今は俺があんたの手を取ろうとしているのに、あんたは俺から離れて行く?」

「・・人生何が起こるか分かりませんね?」
真奈美はそう言って、クスッと笑う。

「ああ。ホントあんたに会ってから、俺はあんたに振り回されっぱなしだ。
随分人生観も変えてもらった」

「じゃ、そろそろ女遊びはやめて、真剣に結婚の事考えたらどうですか?
ご両親に、早く孫の顔見せてあげてくださいよ?」

「あんたが、俺の手を取ってくれるなら、俺はいつでも結婚するし、孫の顔だって見せるさ?」

真奈美は、自分の手に添えられていた憲剛の手を外し、“ 無理です ” と言う。

「もっと剛力家と釣り合う家柄の方を選んで下さい?」

「剛力家には、あんたみたいな気が強くて、頑固な女が良いと思うけどな?
小煩いお袋と張り合える女。
家の留守を任せて安心出来る女が?」

法子さんと張り合える…か…
小煩い母親だなんて、直ぐ後ろに居るのに?
憲剛さんも随分言う様になったなぁ…

「ホント憲剛さん変わりましたね?」
初めて会った頃は、法子さんの前では、緊張と恐怖で萎縮してた人だったのに?

「あなたが変えたのよ?」
後部座席の法子がそう言った。

「剛力家は代々、法曹界へ多くの優秀な人材を送り出してる。私も、母親としてより剛力家の嫁としての立場で、息子達に接して来てたのね…
そんな私の姿をみて来て、息子達は結婚に失望したのよね?」

いつもと違った覇気のない声に、真奈美は後ろに座る法子の顔を見る。

「まぁ正しくは、煩わしいことから逃げたかっただけですよ?」と、憲剛は言って苦笑した。

「でも、そんなあなた達を真奈美さんが変えてくれた?」と法子は言う。

え?
私が?

「今時、家柄なんて、なんの役にも立ちゃしないわよね、あなた?」

「ああ、これ以上必要はない。優秀な部下も育てた。
財界だけじゃなく、多方面にも太いパイプは作ってあるから、100年先まで剛力家の名は轟かせる事はできるだろう」

え?
剛力家って…私が思ってるより凄い家だった?
旦那様は退官してから何をされてるの?
気にはなるけど…
このまま知らずに去った方が、身の為の気がする。
そう思った真奈美は何も聞かずにいた。




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