無愛想な同期の甘やかな恋情
穂高君から突き返された資料は、メモをつけて彼の研究室に置いてきた。


『これは、間中さんとやりたくて考えた案じゃない。お願い、もう一度目を通して、意見をください』


あれから六日。
明日で一週間経つけど、穂高君から連絡はない。


火曜日の今日。
私は、いつもより遅い時間に一人で昼食休憩に入り、社食の片隅のテーブルに着いた。
穂高君に渡した資料のコピーを手元に置いて、無意識に溜め息を漏らす。
ほとんど食欲が湧かないまま、私は惰性で箸を持った。


これならいくらか食べられると思って、冷やしたぬきうどんにしたけど、箸を入れただけで、私の手は止まる。
私は、再び資料に意識を向けた。


自分では、もう何度も目を通した。
びっしり書き込みがしてあって、付箋もたくさん貼ってある。
企画会議は、隔月一回。
次の会議は来月だけど、出すのであれば、そろそろプレゼンの準備を始めなければ間に合わない。


この状態でも、企画書に興せば、それなりに説得力のあるプレゼンができる自信はある。
それをしないのは、穂高君に誤解されたままで、企画を挙げる気になれないからだ。


穂高君は、今の私の仕事に、なくてはならない人。
彼に反対されてまで、無理に通したい企画じゃない。
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