無愛想な同期の甘やかな恋情
「ロッカーに行けば、整髪料とかある?」


ブラシをバッグに戻しながら訊ねる。
せっかく梳かしてあげたのに、歩武君は前髪をサラッと掻き上げていた。


「あるけど、いい。このままで」

「もーっ……。みんなも、今日はいつもより上等なスーツで来てるんだよ?」

「男が着飾ったってしょうがないだろ」


なんとも立て板に水の、返しよう……。
まあ、おしゃれ心っていうのは、女ならではの感覚かもしれないけど。


そもそも最初は、『なんで俺が化粧品なんて』、と言っていたような人だ。
せっかくイケメンなのに、美意識低い歩武君が、なんだかとても残念な感じ。
私はちょっとむくれながら、なんの気もなく彼の方に向き直り……。


私の視界の真ん中で、歩武君がサッと白衣を脱いだ。
顎を引いて、緩めてあったネクタイの結びに手を遣り、直し始める。
わずかに口をへの字に曲げて、面倒臭そうに顔を歪める様がなんだか物憂げで、とんでもなく色っぽい。


「っ」


私は不覚にも息をのんでしまった。
なんてことない仕草に見惚れて、きゅんとする自分に慌てて、私は歩武君に勢いよく背を向けた。


「仕方ないな。メシ食いに行くつもりで、行くしかないか」


まだボヤくように言って、彼は私の肩をポンと叩き、横を通り過ぎていった。
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