一目惚れの彼女は人の妻
 凄い、早業だわ……。しかも大胆。もし私が大声出したら、どうするつもりだったんだろう。

 もっとも、私は敢えて声を出さないようにしたわけだけど、もしかして、それも計算の上だったりして?

 俊君に触られるのは嫌じゃないけど、他の女には触ってほしくないなあ。

 着席すると、俊君は手際よく書類を配り出した。その時にまた胸を触られないように、私は背筋を伸ばして反り気味にして、更に胸の前で腕を組んだ。これなら凄腕の俊君でも触れないと思う。私自身は触られても構わないけど、他の人が気付いたら大変だから。

 俊君の上司の齋藤さんという人の挨拶が終わった時、隣の充さんが

「彼、ホームセンターで遭った”イケメン君”だよね?」

 と私に耳打ちし、

「そうです。すごい偶然でびっくりしちゃった」

 と私も小声で返した。

 俊君は、”アジェンダ”というらしいけど、今日の打ち合わせ内容を簡潔にまとめた資料について、卒なく淡々と説明した。

 俊君は、仕事も出来る人みたい。きっと経理の事にも詳しいんだろうな。

 私は俊君を、大いに見直すのだった。
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