涙の数より空(キミ)が笑ってくれるなら。
四時間目が終わると、誰よりもはやく教室を出た。
あの子達に話しかけられたくなかったから。
「青笑さん」
廊下を少し進んだところで名前を呼ばれ、足を止める。
振り返ると、焦ったように微笑む、りょうたがいた。
「えと……一緒に行きませんか」
「どうせ上いっしょだし」
りょうたは右手の人差し指を上に向けた。
あの空き教室のことだろう。
「ぃぃ、けど」
頭の中に空をヒソヒソと睨むあの子達の顔が浮かぶ。こわい。けど、
「……くすっ」
りょうたにしては不器用な誘い方に、つい笑ってしまった。
りょうたを前にすると、恐怖や胸のざわめきより、温かいものに包まれていく。
もう話すことはないのかもしれないと不安に思っていたことが、今一緒にいられるならもういいやと思う。
不思議だ。
「あっこらっけーちゃんっそんなこわい顔しないよ」
いいとは言ったんだけど……あの二人もいるって聞いてないよね。
まぁそうか、いるよね。先を読めなかった私が甘かった。
ちゃっかり一緒に食堂まで来ちゃったし。いや、ちゃっかりてか、……ほぼ流れ……?
『こいつ誰』
『ちょっとけーちゃんっ』
『あぁ……おまえ』
『おまえ走れ』
『けーちゃん?!』
出会ったばっかりで全力ダッシュさせられるってどんな状況だよ。
頭の中では何をしてんだと思いながらも、久しぶりに感じた風は気持ちよかったな。