恋する耳たぶ
おそるおそる一歩を踏み出すと、残った距離をその一瞬で詰めた匡さんが目の前にいた。
「……すごいな」
「……え?」
通常の三倍くらいステキな匡さんに見とれてぽうっとしていた私は、匡さんの声に起こされた感じで我に返る。
ハッと焦点を結んだ視線の先で、匡さんは白い手袋をもった手で眼鏡を押し上げようとして、片方の手袋を落とした。
「あっ」
重なった声に慌てた様子で私を制し、手袋を拾って。
体を起こした匡さんは、ちらりと私を見た後、横を向いて言った。
「なんて言ったらいいかわからないんだけど……その……すごい」
「……すごい?」
匡さんの言葉を繰り返して、ああ、と納得する。
「やっぱりプロの方ってすごいですよね、自分でもびっくりです」
「うん」
「別人みたいですよね」
「うん……あ、いや」
手袋を持ってない方の手で眼鏡を押し上げて、匡さんは少し困ったような笑みを浮かべて、こちらを向いた。