恋のはじまりは突然に
「ごめんなさい、困らせるつもりはなかったの……。一瞬でも蓮司さんのこと癒せたのなら良かったです。まだまだ傷は癒えないかもしれないけど、幸せになってくださいね」

近くにあった伝票を取ってソッと席を立った。

「傷付いた蓮司さんにこんなことしか出来ないけど、おごらせてくださいね」
「あ、いや、」
「バイバイ、蓮司さん」

やっと蓮司さんは私の目を見てくれたけど、また泣きそうになるから、言葉を遮ってレジへと急いだ。

「なぁちょっと待てって」

お金を払って外に出ようとした時、蓮司さんが追いかけてきて声をかけられたけど、それを無視する形で外に出た。

「おい、結奈!」

もうズルイなぁ。ずっと〝お前〟だったくせに、こういう時に名前で呼ぶんだから。

「お金のことなら大丈夫ですからね?蓮司さんビールしか頼んでなかったから、こんなの出すうちに入らないですけど」

私を呼んだのはお金のことじゃない。そんなの分かってるけど、あえてお金の話にして、すぐに背を向けた。
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