【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
さすがは一国の王の部屋だ。
かなり広く、部屋自体の造りも豪華なものだった。
そこら中に調度品が並べられ、キラキラと煌めいている。
質素な翠の部屋とは大違いだ。
カヤは足音も立てずに、部屋の入口付近まで移動して、重厚な布に耳を押し当てた。
部屋の前に見張りは居ないらしい。
自室の目の前に兵を置く事を、あの駄々っ子王子が嫌がるのだと聞いた事があったのだが、どうやら有難いことに事実らしい。
(……多分、部屋から離れた所に居るんだろう)
そこでようやくカヤは胸を撫で下ろした。
しかし、ゆっくりしている暇など皆無だ。
カヤは、寝台の膨らみに向かって静かに近づくと、大きな鼾を掻くその人物の体を揺り動かした。
「弥依彦様、起きて下さい」
しかし、お酒のせいか気持ちよく寝入っている弥依彦は、そんな生易しい起こし方ではピクリともしない。
更に強く揺さぶると、何やら弥依彦がむにゃむにゃとした声を出した。
「……んー、なんだハヤセミ……僕はまだ眠い……」
なんとも呑気な一国の王に呆れつつも、カヤはその耳音で大声を出した。
「弥依彦様!」
ビクッと弥依彦の体が揺れ、寝ぼけ眼がカヤの方を向く。
とろんとした目つきがこちらを捕らえた瞬間、弥依彦は飛び起きた。
「……ひっ!?な、なんだ!?お前どこから入った……!?」
一瞬で眼が覚めたらしい弥依彦が、寝台の上を後ずさりして、ドンッ!と壁にぶつかった。
今すぐにでも叫び出しそうな程に動揺している。
このままでは、兵を呼ばれてしまう。
そう悟ったカヤは、すぐに後ずさって床に膝を付いた。
「弥依彦様、どうか私の話を聞いて下さいっ」
敵意が無い事を知らせるため、頭を深く床に擦りつけながら言う。
「翠様ではなく、どうか私めを嫁にして頂けませんか」
はっきりとした口調のカヤとは正反対に、弥依彦はうろたえまくっていた。
「は?え?なにを言ってるんだ……?」
カヤは弥依彦を驚かせないように、ゆっくりと頭を上げた。
弥依彦は、未だ壁にぴったりと背を付けたまま、縮こまっている。
(……厄介なハヤセミは居ない。今の弥依彦なら、私だけでもきっと説得出来る……かもしれない)
そう願いつつ、カヤは床に膝を付いたままの低姿勢で口を開いた。
「実はここだけの話、翠様は目的のためなら手段を選びないような、残忍で冷酷な女性なのです」
カヤは出来るだけ瞬きをしないように弥依彦を見つめながら言う。
「翠様がこのまま嫁に来れば、あらゆる手段を使いこの国の実権を奪い取ろうとしてくるでしょう。あのお方の事です……最悪、弥依彦様のお命すら狙う可能性もございます」
「す、翠が?あんな美しい女が、そんな事するわけが……」
信じられない、とでも言うように首を振る弥依彦に、カヤはきっぱりと言った。
「あの方のお世話役に就いていた私が言うのです。間違いございません。私がお傍に居た短い期間だけでも、あの方はざっと10人程は気に入らない人間を始末しておりました。生かして国を追い出す程度ならまだ可愛いほうで……酷い者は、死体すら残っておりません」
強い口調が効いたのか、弥依彦は衝撃を受けたような顔をした。
かなり広く、部屋自体の造りも豪華なものだった。
そこら中に調度品が並べられ、キラキラと煌めいている。
質素な翠の部屋とは大違いだ。
カヤは足音も立てずに、部屋の入口付近まで移動して、重厚な布に耳を押し当てた。
部屋の前に見張りは居ないらしい。
自室の目の前に兵を置く事を、あの駄々っ子王子が嫌がるのだと聞いた事があったのだが、どうやら有難いことに事実らしい。
(……多分、部屋から離れた所に居るんだろう)
そこでようやくカヤは胸を撫で下ろした。
しかし、ゆっくりしている暇など皆無だ。
カヤは、寝台の膨らみに向かって静かに近づくと、大きな鼾を掻くその人物の体を揺り動かした。
「弥依彦様、起きて下さい」
しかし、お酒のせいか気持ちよく寝入っている弥依彦は、そんな生易しい起こし方ではピクリともしない。
更に強く揺さぶると、何やら弥依彦がむにゃむにゃとした声を出した。
「……んー、なんだハヤセミ……僕はまだ眠い……」
なんとも呑気な一国の王に呆れつつも、カヤはその耳音で大声を出した。
「弥依彦様!」
ビクッと弥依彦の体が揺れ、寝ぼけ眼がカヤの方を向く。
とろんとした目つきがこちらを捕らえた瞬間、弥依彦は飛び起きた。
「……ひっ!?な、なんだ!?お前どこから入った……!?」
一瞬で眼が覚めたらしい弥依彦が、寝台の上を後ずさりして、ドンッ!と壁にぶつかった。
今すぐにでも叫び出しそうな程に動揺している。
このままでは、兵を呼ばれてしまう。
そう悟ったカヤは、すぐに後ずさって床に膝を付いた。
「弥依彦様、どうか私の話を聞いて下さいっ」
敵意が無い事を知らせるため、頭を深く床に擦りつけながら言う。
「翠様ではなく、どうか私めを嫁にして頂けませんか」
はっきりとした口調のカヤとは正反対に、弥依彦はうろたえまくっていた。
「は?え?なにを言ってるんだ……?」
カヤは弥依彦を驚かせないように、ゆっくりと頭を上げた。
弥依彦は、未だ壁にぴったりと背を付けたまま、縮こまっている。
(……厄介なハヤセミは居ない。今の弥依彦なら、私だけでもきっと説得出来る……かもしれない)
そう願いつつ、カヤは床に膝を付いたままの低姿勢で口を開いた。
「実はここだけの話、翠様は目的のためなら手段を選びないような、残忍で冷酷な女性なのです」
カヤは出来るだけ瞬きをしないように弥依彦を見つめながら言う。
「翠様がこのまま嫁に来れば、あらゆる手段を使いこの国の実権を奪い取ろうとしてくるでしょう。あのお方の事です……最悪、弥依彦様のお命すら狙う可能性もございます」
「す、翠が?あんな美しい女が、そんな事するわけが……」
信じられない、とでも言うように首を振る弥依彦に、カヤはきっぱりと言った。
「あの方のお世話役に就いていた私が言うのです。間違いございません。私がお傍に居た短い期間だけでも、あの方はざっと10人程は気に入らない人間を始末しておりました。生かして国を追い出す程度ならまだ可愛いほうで……酷い者は、死体すら残っておりません」
強い口調が効いたのか、弥依彦は衝撃を受けたような顔をした。