【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
(何も思うな、何も考えるな)

死ぬ気で自分に言い聞かせつつ、カヤは黙って寝台に仰向けに寝転んだ。

最高級の寝心地のはずなのだろうが、今は冷たい雪の上にでも身を置いているかのように思える。

大人しく横たわり石になっていると、何故か弥依彦が唐突に寝台を降りた。

「……これで良いか」

そう呟いて手に取ったのは、カヤが先ほど床に落とした腰紐だった。

一体何をする気なのかと思えば、戻ってきた弥依彦はいきなりカヤの両手を抑えつけ、腰紐を両手首に巻き付け始めた。

「や、弥依彦様……!?このような事をせずとも私は逃げませんっ」

「煩い、念のためだ!黙ってろ!」

叱咤の声と共に、ギュっと紐に力を込められた。

「いっ……つ……」

粗暴な手つきに、痛みの声が漏れる。
しかし手首の痛みよりも、大切な腰紐をこんな事に使われる悲しみの方が胸に刺さった。

(ナツナ、ユタっ……ごめん!)

強く閉じた瞼の裏に、見送ってくれた二人の顔が浮かんだ。

執拗な程にしっかりとカヤを拘束した弥依彦は、寝台に膝立ちになりながら額の汗を拭う。

「よし、これで良い……それで、つ、次は何をすれば良いんだっ?」

まさかの発言に、2人に許しを乞うていたカヤの思考が一瞬で止まった。

「……え?」

まじまじと弥依彦を見つめる。
一体全体、この男は何を言っているのだろう。

「さっさと言え!次は何をするんだ!」

怒鳴った弥依彦から、唾が飛んできた。

「ふ、服を……服を、お脱ぎ下さい」

それすらも気にならない程に動揺しながら、カヤはやっとの思いでそう口にした。

「分かった」

短く良い、目の前の弥依彦がいそいそと脱ぎだす。
反射的に勢いよく目を閉じたカヤの頭の中を、混乱の波が押し寄せ掻き乱した。

(う、嘘……まさかこの男、何も知らないのか?)

半分裸のような状態で手首を縛られ、今すぐにでも羞恥で死にそうだと言うのに。
この上更に、一から十まで優しく手順を教えてあげなければいけないのか?

冗談では無い。
地獄以上に地獄では無いか!

色んな意味で泣きそうになっているカヤの耳に、意気揚々とした弥依彦の声が届いてきた。

「脱いだぞ!次はどうするんだ!」

嗚呼、やはり手取り足取りこの男に教えるしか無いらしい。

とは言え、一体全体何をどのように説明してやれば良いのか全く分からなかった。

大見え切って誘惑してみたものの、こちとらおぼろげな知識しか持ち合わせていない生娘なのだ。

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