【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「あの時のお主の覚悟、生半可なものではなかったであろう」
あまりにも自分の身には有り余る言葉に、カヤは首を横に振った。
「そんな大層なものではありません。ただただ無我夢中なだけだったので、覚悟すると言う自覚すら無かったのです……」
今度はカヤが弱気な発言をする番だった。
タケルが珍しい事をするから、不思議な事にそれがカヤにも伝染してしまったようだった。
「と言うか、あの時は大泣きしたせいで正常な判断が付かなくて……それに加えて翠様を止められなかった事に混乱してしまって、あのような愚行に走ってしまったと言いますか……国の事を考えてと言うよりも、むしろ翠様の事を考えて、と言った方が正しいような……」
頭を押さえながら、ぶつぶつ言った後に、しまったと思った。
素直に頷いておけば良かったのに、何を自分は言わなくても良い事をぺらぺらと口走ってしまったのだろうか。
「……まあ、そうだとしてもだ」
一瞬で緊張したカヤに、しかしタケルは凛と言う。
「結果がどうであれ、そなたの行為は翠様のため……ひいては、この国のためであった事に変わりはない。お主の忠誠心は確かに受け取ったぞ」
その言葉に、不思議なほどカヤの肩から力が抜けた。
あの日以来、なんとなく心が強張っていたような気がしていた。
後悔ばかりだったのだ。
己のせいで翠に苦しい思いをさせてしまったこと。
それが、ゆっくりとカヤを押し潰し続けていたのだ。
「……ありがとうございます」
嬉しくて震えそうになる唇で、どうにか礼を口にすると、タケルが頭を下げた。
「こちらこそ、心から感謝する。これからも翠様を頼むぞ……カヤよ」
本日一番の驚きに、カヤは頭を殴られたような衝撃を受けた。
タケルから礼を言われた。
そして何より、初めて名を呼んでもらえた。
(……どうしよう)
喉の奥が、つんと痛みを帯びる。
この国に来て初めて、自分の行いで誰かの信頼を得た、と。
そう実感できた初めての瞬間であった。
(私の、意志……)
脆くて、触れれば崩れそうな、それ。
正しいとは言えない事だらけだろうが、それでもこうして初めて輪郭を成した。
行動したのはカヤ。
しかし導いてくれたのは、紛れも無くあの人だ。
(あの時、傲慢にも掬いたいと思って良かった)
きっと今では、自分が掬われているのだろうが。
それでもやはり、この道の先に望むものがある―――――翠と共に、歩んでいけば。
カヤはそう確信した。
「はい。精一杯、あの方へお仕え致します」
深く頭を下げたカヤに、タケルが満足そうに頷いた。
「ちなみになのだが、この機会に一つ聞いておきたい事がある」
話しも一段落した頃、タケルが唐突にそう言った。
「なんでしょうか?」
「……そなたは、翠様の事をどう思っている?」
やけに漠然とした質問だった。
カヤは数秒間考えた後、きっぱりと言った。
「命の恩人だと思っております」
大げさかもしれないが、あながち間違ってもいない答だった。
あまりにも自分の身には有り余る言葉に、カヤは首を横に振った。
「そんな大層なものではありません。ただただ無我夢中なだけだったので、覚悟すると言う自覚すら無かったのです……」
今度はカヤが弱気な発言をする番だった。
タケルが珍しい事をするから、不思議な事にそれがカヤにも伝染してしまったようだった。
「と言うか、あの時は大泣きしたせいで正常な判断が付かなくて……それに加えて翠様を止められなかった事に混乱してしまって、あのような愚行に走ってしまったと言いますか……国の事を考えてと言うよりも、むしろ翠様の事を考えて、と言った方が正しいような……」
頭を押さえながら、ぶつぶつ言った後に、しまったと思った。
素直に頷いておけば良かったのに、何を自分は言わなくても良い事をぺらぺらと口走ってしまったのだろうか。
「……まあ、そうだとしてもだ」
一瞬で緊張したカヤに、しかしタケルは凛と言う。
「結果がどうであれ、そなたの行為は翠様のため……ひいては、この国のためであった事に変わりはない。お主の忠誠心は確かに受け取ったぞ」
その言葉に、不思議なほどカヤの肩から力が抜けた。
あの日以来、なんとなく心が強張っていたような気がしていた。
後悔ばかりだったのだ。
己のせいで翠に苦しい思いをさせてしまったこと。
それが、ゆっくりとカヤを押し潰し続けていたのだ。
「……ありがとうございます」
嬉しくて震えそうになる唇で、どうにか礼を口にすると、タケルが頭を下げた。
「こちらこそ、心から感謝する。これからも翠様を頼むぞ……カヤよ」
本日一番の驚きに、カヤは頭を殴られたような衝撃を受けた。
タケルから礼を言われた。
そして何より、初めて名を呼んでもらえた。
(……どうしよう)
喉の奥が、つんと痛みを帯びる。
この国に来て初めて、自分の行いで誰かの信頼を得た、と。
そう実感できた初めての瞬間であった。
(私の、意志……)
脆くて、触れれば崩れそうな、それ。
正しいとは言えない事だらけだろうが、それでもこうして初めて輪郭を成した。
行動したのはカヤ。
しかし導いてくれたのは、紛れも無くあの人だ。
(あの時、傲慢にも掬いたいと思って良かった)
きっと今では、自分が掬われているのだろうが。
それでもやはり、この道の先に望むものがある―――――翠と共に、歩んでいけば。
カヤはそう確信した。
「はい。精一杯、あの方へお仕え致します」
深く頭を下げたカヤに、タケルが満足そうに頷いた。
「ちなみになのだが、この機会に一つ聞いておきたい事がある」
話しも一段落した頃、タケルが唐突にそう言った。
「なんでしょうか?」
「……そなたは、翠様の事をどう思っている?」
やけに漠然とした質問だった。
カヤは数秒間考えた後、きっぱりと言った。
「命の恩人だと思っております」
大げさかもしれないが、あながち間違ってもいない答だった。