【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「あ、あったあ……」
喜びに踊る、というよりも安心して力が抜けた。
これほどまでに人の感情を左右させるなんて、憎らしい花である。
カヤは雨に打たれている雪中花に近寄ると、せっせとそれを摘んで、大事に懐に仕舞った。
「……よし」
これでもう大丈夫。翠が元気になる。
花が入っている胸元にそっと手を置き、カヤは安堵の溜息を付いた。
すると、背後からガサガサと茂みを掻き分ける音が聞こえてきた。
どうやらミナトが追いついてきたらしい。
「あ、ミナト!花、あった……よ……」
振り返ったカヤの言葉は、ぶつんと途切れた。
そこに居たのはミナトでは無かった。
見覚えの無い、数人の男達だったのだ。
「……だ、れ……?」
カヤは強張った表情で立ち上がった。
一、二、三、四……軽く数えただけでも男達は十数人は居る。
皆で仲良く森をお散歩してるような雰囲気では無さそうだ。
明らかにカヤに対して、敵意が剥き出しである。
(最悪だ)
そして、カヤは気付きたくも無かったが気付いてしまった。
全員の手に何やら物騒なものがあるのだ。
殆どの男達は剣を握っているし、数人は何やら横向きの弓のようなものを持っていた。
見慣れない形の弓だが、弦には矢が仕掛けられいるし、矢じりは真っすぐにカヤを向いている。
いつでもカヤに矢を射れるのだろう、と嫌な予想が出来た。
男達は立ちすくむカヤを包囲するように、じわじわと距離を詰めてくる。
その中の数人の風貌に見覚えがあった。
森に来る途中、村でカヤに熱い視線を送ってきた奴らに違いない。
(お仲間引き連れて追いかけてきたってわけか……)
狙いは髪は、或いはカヤ自身か。
「来ないで。悪いけど急いでるの。貴方たちに付き合ってる暇は無い」
きっぱりと言いつつ、後ずさる。
しかし後ろは崖だ。もうこれ以上は下がれない。
小娘一人を拐かすにしても、なんだってこんなに大人数なのだ。
慈悲の欠片もありゃしない。
(このまま全力で逃げるか……)
まだ男達との間には距離がある。
手が届く距離になってしまう前に全力で走れば、逃げ切れるかもしれない。
飛び道具を持っている者もいるが、カヤを売り払うつもりなら恐らく傷付けては来ないだろう。
(……一か八かだ!)
決心したと同時、カヤは左方向に駆けだした。
「逃がすかっ!」
恐ろしい声と共に、一番近くに居た男の手が伸びてくる。
身体を捩って間一髪その手からすり抜けたが、焦りすぎていたカヤの足はもつれて絡まった。
「わっ……!」
体勢を崩した僅かな一瞬の隙に、思いっきり右腕を掴まえられる。
「おら、来い!」
「は、なしてっ……!」
ぐいぐいと引っ張られ、カヤは必死に男と揉み合った。
男の力に勝てるわけもなく、踏ん張る足はズルズルと地面を滑っていく。
(嗚呼、駄目だ……!)
絶望に近い諦めが湧いた時だった。
「―――――やめろっ!」
ドガッ!という激しい音と共に、目の前の男が吹っ飛んだ。
「きゃあ!」
その衝撃にカヤは悲鳴を上げ、その場に尻もちを付いた。
喜びに踊る、というよりも安心して力が抜けた。
これほどまでに人の感情を左右させるなんて、憎らしい花である。
カヤは雨に打たれている雪中花に近寄ると、せっせとそれを摘んで、大事に懐に仕舞った。
「……よし」
これでもう大丈夫。翠が元気になる。
花が入っている胸元にそっと手を置き、カヤは安堵の溜息を付いた。
すると、背後からガサガサと茂みを掻き分ける音が聞こえてきた。
どうやらミナトが追いついてきたらしい。
「あ、ミナト!花、あった……よ……」
振り返ったカヤの言葉は、ぶつんと途切れた。
そこに居たのはミナトでは無かった。
見覚えの無い、数人の男達だったのだ。
「……だ、れ……?」
カヤは強張った表情で立ち上がった。
一、二、三、四……軽く数えただけでも男達は十数人は居る。
皆で仲良く森をお散歩してるような雰囲気では無さそうだ。
明らかにカヤに対して、敵意が剥き出しである。
(最悪だ)
そして、カヤは気付きたくも無かったが気付いてしまった。
全員の手に何やら物騒なものがあるのだ。
殆どの男達は剣を握っているし、数人は何やら横向きの弓のようなものを持っていた。
見慣れない形の弓だが、弦には矢が仕掛けられいるし、矢じりは真っすぐにカヤを向いている。
いつでもカヤに矢を射れるのだろう、と嫌な予想が出来た。
男達は立ちすくむカヤを包囲するように、じわじわと距離を詰めてくる。
その中の数人の風貌に見覚えがあった。
森に来る途中、村でカヤに熱い視線を送ってきた奴らに違いない。
(お仲間引き連れて追いかけてきたってわけか……)
狙いは髪は、或いはカヤ自身か。
「来ないで。悪いけど急いでるの。貴方たちに付き合ってる暇は無い」
きっぱりと言いつつ、後ずさる。
しかし後ろは崖だ。もうこれ以上は下がれない。
小娘一人を拐かすにしても、なんだってこんなに大人数なのだ。
慈悲の欠片もありゃしない。
(このまま全力で逃げるか……)
まだ男達との間には距離がある。
手が届く距離になってしまう前に全力で走れば、逃げ切れるかもしれない。
飛び道具を持っている者もいるが、カヤを売り払うつもりなら恐らく傷付けては来ないだろう。
(……一か八かだ!)
決心したと同時、カヤは左方向に駆けだした。
「逃がすかっ!」
恐ろしい声と共に、一番近くに居た男の手が伸びてくる。
身体を捩って間一髪その手からすり抜けたが、焦りすぎていたカヤの足はもつれて絡まった。
「わっ……!」
体勢を崩した僅かな一瞬の隙に、思いっきり右腕を掴まえられる。
「おら、来い!」
「は、なしてっ……!」
ぐいぐいと引っ張られ、カヤは必死に男と揉み合った。
男の力に勝てるわけもなく、踏ん張る足はズルズルと地面を滑っていく。
(嗚呼、駄目だ……!)
絶望に近い諦めが湧いた時だった。
「―――――やめろっ!」
ドガッ!という激しい音と共に、目の前の男が吹っ飛んだ。
「きゃあ!」
その衝撃にカヤは悲鳴を上げ、その場に尻もちを付いた。