【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
氷のような沈黙を破ったのは、この場に似つかわしい程に明朗なハヤセミの声だった。
「なんと、そうだったのか。いつ頃産まれるのだ?」
「このご様子ですと、秋口あたりでしょうなあ」
「そうか、そうか……いや、まさか御子がいらっしゃったとはね。知らなかったな」
そう独り言のように呟いたハヤセミは、未だ呆けたように突っ立っているミナトを見やり、鼻で笑った。
「はっ、驚きすぎて声も出ないか。まあ、良くやったな、ミズノエ」
ぽん、と肩を叩かれ、ミナトはようやくピクリと反応を示した。
「……え?」
どうしてそんな言葉を掛けれたのか分からないようだった。
同じだ。カヤも全く分からなかった。
一体、何が『良くやった』と言うのだ?
「本来ならば王である私との間に子を設けるのが自然だろうが、弟のお前なら問題ない。それに、神の娘の血を引く子供には変わりない」
なんという事だろう。
幸か不幸か、ハヤセミは大きな勘違いをしていた。
(違う)
カヤは無意識に腹に手をあてた。
分かるはずも無い鼓動を感じながら、瞼の裏にあの愛しい人を浮かべて。
(この子はミナトとの子じゃない。この子は……)
―――――――カヤと翠の子だ。
「もう少し腹の子が成長して、クンリク様の体調が安定した暁には、盛大に祝言を上げましょう」
そう言ったハヤセミは、カヤが見てきた中で一番分かりやすい笑顔をしていた。
心底嬉しいのだ、と分かった。
『神の娘の子供』を手に入れる事と言う事は、この男が長年思い描いていた夢だと知っていたから。
「くれぐれも安静に」とそう言い残し、ハヤセミは医務官を引き連れて部屋を出ていった。
カヤ、ミナト、そして律の三人だけとなった部屋は、押し潰されそうな沈黙に支配される。
「……お前、知ってたのか……?」
震える声でミナトがそんな疑問を投げかけてきた。
正確に言えば知らなかった、と言った方が正しい。
ただ、薄々とは感付いていた。
不自然に続く体調の悪さ、止まった月のもの、そして何より。
(あの夢……)
大変に不思議な事だし、説明も付かないのだが、数日前に見たあの夢が、カヤになんとなくそれを悟らせた。
「……そうかな、とは思ってた」
ミナトが大きく息を呑んだ。
二、三歩よろけたミナトは、はっ、と乾いた笑いを漏らす。
「……じゃあ、父親は?父親は誰だって言うんだよ……?」
その追及から逃れるように、深く俯いた。
ハヤセミは勘違いしてくれたが、自分が父親では無い事はミナトが一番良く分かっている。
しかし、口が裂けても言えるわけが無かった。
「なんと、そうだったのか。いつ頃産まれるのだ?」
「このご様子ですと、秋口あたりでしょうなあ」
「そうか、そうか……いや、まさか御子がいらっしゃったとはね。知らなかったな」
そう独り言のように呟いたハヤセミは、未だ呆けたように突っ立っているミナトを見やり、鼻で笑った。
「はっ、驚きすぎて声も出ないか。まあ、良くやったな、ミズノエ」
ぽん、と肩を叩かれ、ミナトはようやくピクリと反応を示した。
「……え?」
どうしてそんな言葉を掛けれたのか分からないようだった。
同じだ。カヤも全く分からなかった。
一体、何が『良くやった』と言うのだ?
「本来ならば王である私との間に子を設けるのが自然だろうが、弟のお前なら問題ない。それに、神の娘の血を引く子供には変わりない」
なんという事だろう。
幸か不幸か、ハヤセミは大きな勘違いをしていた。
(違う)
カヤは無意識に腹に手をあてた。
分かるはずも無い鼓動を感じながら、瞼の裏にあの愛しい人を浮かべて。
(この子はミナトとの子じゃない。この子は……)
―――――――カヤと翠の子だ。
「もう少し腹の子が成長して、クンリク様の体調が安定した暁には、盛大に祝言を上げましょう」
そう言ったハヤセミは、カヤが見てきた中で一番分かりやすい笑顔をしていた。
心底嬉しいのだ、と分かった。
『神の娘の子供』を手に入れる事と言う事は、この男が長年思い描いていた夢だと知っていたから。
「くれぐれも安静に」とそう言い残し、ハヤセミは医務官を引き連れて部屋を出ていった。
カヤ、ミナト、そして律の三人だけとなった部屋は、押し潰されそうな沈黙に支配される。
「……お前、知ってたのか……?」
震える声でミナトがそんな疑問を投げかけてきた。
正確に言えば知らなかった、と言った方が正しい。
ただ、薄々とは感付いていた。
不自然に続く体調の悪さ、止まった月のもの、そして何より。
(あの夢……)
大変に不思議な事だし、説明も付かないのだが、数日前に見たあの夢が、カヤになんとなくそれを悟らせた。
「……そうかな、とは思ってた」
ミナトが大きく息を呑んだ。
二、三歩よろけたミナトは、はっ、と乾いた笑いを漏らす。
「……じゃあ、父親は?父親は誰だって言うんだよ……?」
その追及から逃れるように、深く俯いた。
ハヤセミは勘違いしてくれたが、自分が父親では無い事はミナトが一番良く分かっている。
しかし、口が裂けても言えるわけが無かった。