【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「……では、すまないがお言葉に甘えても良いだろうか」

やがてそう決断を下した翠に、膳は深く頷いた。



一行は膳に案内されながら、森を進んだ。

いつの間にか東の空は薄っすらと白み始め、眼を覚ました鳥達が囀り始めていた。

一睡もしていない事、そして色々な緊張感から解放された事もあり、カヤは段々と足がふら付いてきた。

「大丈夫か?」

「ああ、うん、大丈夫大丈夫」

心配そうな翠に手を引いて貰いながら、一際茂った藪を抜けた時だった。


「着きました」

一番先頭を歩いていた膳が、足を止めた。


正に森に隠されるようにして、その集落は在った。

開けた狭い土地に、十個ほどの住居が建てられている。

決して大きくは無いが、こんな森の奥でどうやって建てたのかが不思議になる程、それぞれの家はしっかりとした造りをしていた。

住居の周りには、幾つもの畑が点在していた。

道は雪で覆われているのに、畑は茶色い土が剥き出しになっている所を見ると、きちんと手入れをされているようだ。

そして集落の真ん中には、なんと井戸までもあった。

膳の言う通り住人はとても少なそうだが、想像していたよりもずっと整備されている。


膳は、集落の中でも一際立派な家にカヤ達を誘った。
集落で唯一、門と塀に囲まれたこの家は膳の住居らしい。

カヤ達はその内の一室で休ませて貰いながら、膳に掻い摘んで事情を説明した。


「なんと……そのような事が」

翠が全てを話し終わった後、膳が深く息を吐いた。

膳の図らいで夜具を敷いて貰ったカヤは、大人しく横になりながら、翠の説明に耳を傾けていた。

そんなカヤに付き添うようにして、翠は枕元に座している。

そしてその隣には、タケル、ミナト、そして居心地が悪そうにしている弥依彦の姿があった。



「この場所は丁度国境に位置しておりますので、両国の話は薄々と耳に入って来てはおりました。ハヤセミと言う男は、かなり切れ者だと聴いております。目的のためなら手段を選ばぬとも……」

険しい表情で膳が言った。

「ああ。今頃カヤ達を血眼で探しているだろうな」

神妙に頷いた翠に、ミナトが口を開く。

「律が手を打ちには行きましたが……兄上ならば、見破るかもしれません」

律は村に到着してすぐに、カヤが着ていた衣を持って何処かへ行ってしまった。

曰く、カヤが森の中で足を滑らせ、崖から転落死してしまったように見せかけるための細工をしに行ったらしい。

< 480 / 637 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop