【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「生憎、私は自分の行きたい道を行きますので」

翠様の視線に負けないよう、きっぱりと言い張る。

「ほう。その道、そなたのような娘が歩くのは困難そうだが」

皮肉るような言い方に、今度こそはっきりとした不愉快さを感じた。

「無理やり切り開くんで、ご心配なく。助言頂きありがとうございます!」

噛みつくように言うと、翠様はまた面白そうに、くつくつと笑った。



(なんだこの人。変な人……)

今の会話のどこに笑える要素があったのか、さっぱり分からない。
しかめっ面をしていると、やがて翠様は笑いを取り去った。


「――――稀に」

ざり。
白い指に抱かれたままの金の髪が、擦られて鳴いた。

いつの間にか、翠様は真面目な表情になっていた。

「時に長い年月をかけて、樹液が宝石になる事があるらしい」

「……はい?」

唐突に出てきた脈絡の無い話に、思わずカヤの口から戸惑いの声が漏れる。

「一度見たことがあるのだが、そなたの眼によく似ている。面白いと思わないか?本来ならば宝石になりえない物が、価値あるものになるなんて」

よく分からない翠様の話に「はあ……」と言う気の抜けた返事しか出来ない。

そんなカヤに向かって、翠様が眼尻を下げた。
弧を描いた双眸が、あんまりにも儚く優しくて。

(あ、まずい。絡めとられる)

底の知れない夜の色が、心を、体を、惹きこんで離さない。

思わず視線を逸らしたくなる。
けれど、逸らす事を自分が拒否する。

逸らしたい。
逸らせない。

そんな湧き出た馬鹿みたいな矛盾の中、これまた馬鹿な事を考えた。


――――この人の眼こそ、まるで宝石みたいだ。





「意志のあるところに、道は開く」

囁くように言って、翠様は固まったままのカヤの髪から手を離した。

「そなたのような娘の小さな意志も、いつかは道を開くやもしれぬな」

そう言い残し、翠様は背を向けて離れて行く。
そして未だ頭を垂れている膳に向って言った。

「膳。この娘は、今日から私の民だ。他の民と同様、平等に扱うように」

「は、はい!畏まりました!」

「行こう、タケル」

「は!」

そうして翠様は、一度もこちらを振り返る事なく、タケルを引き連れて去っていった。


やがて、静まり返っていたはずの空間は、少しずつ喧噪を取り戻していく。

緊張感があった場の空気は、ようやく和らいだものになり、村人達は徐々に散らばっていった。


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