【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「……っ!?」

不自然なほど唐突に背が伸びた炎に、思わずビクッと身じろぎをする。

戦慄するカヤをよそに、翠は祭壇に置いてあった薄黄色の塊を手に取った。

それは紛れも無く骨だった。
大きさや形から察するに、動物の骨盤辺りだろうか。

翠は油を先端に染み込ませた木の棒を炎の中に入れて火を移すと、躊躇なく骨に押し当てた。

じゅう、と音がして異様な匂いが鼻を衝く。
3度それを繰り返した翠は、じっと焼かれた骨を見つめた。

何か見えるのだろうか?
眼を凝らして翠の手の中の骨を見るが、そこにあるのはただのひび割れだ。

カヤが首を捻っていると、翠が静かに口を開いた。

「――――……山は動く事無く、川は荒ぶらず。但し、緩み持つなかれ。水の流れは生より早い」

あまりにも静かに、それは終わった。


言い終えた翠は、骨を祭壇に置き、また深く頭を下げた。
それに続いてタケルとカヤも礼をする。

衣擦れの音すらさせずに頭を上げた翠は、身体をこちらに向けた。

「……と、言うわけだ。タケル」

訳の分からない言葉ではなく、普段通りの『翠様』の口調だ。
名を呼ばれたタケルは、深く頷く様子を見せた。

「お疲れ様でございます。承知致しました」

「早めの伝令を頼むよ」

「はい、すぐに。……しかし、翠様は大丈夫ですか?」

「案ずるな。カヤも居る」

「……分かりました。では、くれぐれも安静にお休み下さい」

そう言ってタケルは俊敏に立ちあがった。

「娘、分かっておるな」

そしてカヤにそう言い残して、そのままドスドスと部屋を出ていってしまった。


「…………え?」

残されたカヤは呆然とタケルが出て行った入口を見つめる。

"分かっておるな"と言われても、何一つとして分からない。


「ね、ねえ翠、なんの事……?」

戸惑いながら翠に視線を戻したカヤはギョッとした。
翠がぐったりと床に手を付いていたのだ。

「翠!」

慌てて駆け寄り、その背中を支える。
翠の体はとても熱くなっていて、しかしその顔色は血の気が引いてしまったように悪い。

「ど、どうしたの?」

「いや、悪いな……占いの後はいつもこうなるんだよ……気にすんな」

「いや、気にするよ!」

今にも崩れ落ちてしまいそうな翠の体を引っ掴んで、その場でゆっくり横たえた。

翠の眉は辛そうにしかめられていて、額には冷や汗が滲んでいる。
強く閉じられた瞼の上で、長い睫毛が苦しそうにわなないていた。

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