【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
翠の話によると、カヤが仕え始める以前までは、よくそこの広場でタケルと剣の稽古をしていたらしい。
やっと土地の振り分けが終わったのが祭事の日で、少し余裕が出来た翠は、晴れて念願の剣をまた振るい始めた。
剣の事なんてよく分からないけど、結構な腕前なのだろうという事は、初めてタケルとの稽古を見た時から分かった。
「翠様、大変剣がお上手なんですねえ」
棒読みがちに言うと、衣をパタパタと仰いでいた翠は、ニッコリと微笑んだ。
「いやいや、対した腕ではあるまいよ」
腹立つ程わざとらしい笑顔である。
翠め、分かってて言ってるな。
じっとりと翠を半眼で見つめていると、床に器を置いたタケルが声を口を開いた。
「翠様。そろそろ私めは仕事に戻りますので、失礼しても宜しいでしょうか?」
「ああ。稽古に付き合ってもらって悪かったね」
「とんでもございません」
のっそりと立ち上がったタケルは、翠に頭を下げて部屋を出て行った。
ドスドスという足音が遠ざかっていき、完全に聞こえなくなった頃、カヤは翠に向き直った。
「……嘘付き」
「なんだよ、いきなり酷いな」
唇を尖らせながら言うが、翠はどこ吹く風だ。
「コウの時は、剣なんて振れないって言ってたのに滅茶苦茶振れてるじゃん」
「滅茶苦茶は振れてねえけど……だって、ああでも言わないと疑われたらまずいだろ?」
無邪気に小首を傾げる翠を、カヤはじとーっと横目で睨む。
「……まだ他にも嘘付いている事、あるんじゃないの」
疑わしくそう言うと、翠は斜め上を見ながら頬を掻いた。
「あー、うーん……拾い物だって言ったあの剣、実は拾い物じゃないです」
「でしょうね」
「研いでないって言ったけど、割とマメに手入れもしてます」
「うん、たまにしてるもんねっ」
「後は、東の国の産まれってのも違います。この国で産まれました」
「そうだろうなと思ってた!」
「でも、カヤの髪を稲穂みたいで綺麗だと思ったのは本当」
「そういえばそんな事言ってましたね!……って、え?」
自棄になりながら返事をしていたカヤは、はたと口を止めた。
翠は憎らしい事に、非常に真面目な眼差しでカヤを見つめていた。
「初めて見た時から綺麗だと思ってたよ。これは、本当の事」
弁解のつもりなのか、なんなのか。
どういう気持ちで言っているのか分からず、思わず動揺する。
「あ、そう……なの?」
たじたじとしながらそう言うと、翠はふわりと柔和に微笑んだ。
「そうだよ」
その眼尻が弧を描き、妖艶にカヤを流し見た。
美しいその仕草に、知らず、息が止まる。
だが次の瞬間、
「……ふっ、はは」
翠はいきなり俯いて笑いだした。
は?とカヤは眉を寄せる。
「ほんっとカヤって、単純と言うか何と言うか……」
堪えきれないように肩を揺らす翠を見て、一瞬で悟る。
カヤは、まんまとおちょくられたようだった。
やっと土地の振り分けが終わったのが祭事の日で、少し余裕が出来た翠は、晴れて念願の剣をまた振るい始めた。
剣の事なんてよく分からないけど、結構な腕前なのだろうという事は、初めてタケルとの稽古を見た時から分かった。
「翠様、大変剣がお上手なんですねえ」
棒読みがちに言うと、衣をパタパタと仰いでいた翠は、ニッコリと微笑んだ。
「いやいや、対した腕ではあるまいよ」
腹立つ程わざとらしい笑顔である。
翠め、分かってて言ってるな。
じっとりと翠を半眼で見つめていると、床に器を置いたタケルが声を口を開いた。
「翠様。そろそろ私めは仕事に戻りますので、失礼しても宜しいでしょうか?」
「ああ。稽古に付き合ってもらって悪かったね」
「とんでもございません」
のっそりと立ち上がったタケルは、翠に頭を下げて部屋を出て行った。
ドスドスという足音が遠ざかっていき、完全に聞こえなくなった頃、カヤは翠に向き直った。
「……嘘付き」
「なんだよ、いきなり酷いな」
唇を尖らせながら言うが、翠はどこ吹く風だ。
「コウの時は、剣なんて振れないって言ってたのに滅茶苦茶振れてるじゃん」
「滅茶苦茶は振れてねえけど……だって、ああでも言わないと疑われたらまずいだろ?」
無邪気に小首を傾げる翠を、カヤはじとーっと横目で睨む。
「……まだ他にも嘘付いている事、あるんじゃないの」
疑わしくそう言うと、翠は斜め上を見ながら頬を掻いた。
「あー、うーん……拾い物だって言ったあの剣、実は拾い物じゃないです」
「でしょうね」
「研いでないって言ったけど、割とマメに手入れもしてます」
「うん、たまにしてるもんねっ」
「後は、東の国の産まれってのも違います。この国で産まれました」
「そうだろうなと思ってた!」
「でも、カヤの髪を稲穂みたいで綺麗だと思ったのは本当」
「そういえばそんな事言ってましたね!……って、え?」
自棄になりながら返事をしていたカヤは、はたと口を止めた。
翠は憎らしい事に、非常に真面目な眼差しでカヤを見つめていた。
「初めて見た時から綺麗だと思ってたよ。これは、本当の事」
弁解のつもりなのか、なんなのか。
どういう気持ちで言っているのか分からず、思わず動揺する。
「あ、そう……なの?」
たじたじとしながらそう言うと、翠はふわりと柔和に微笑んだ。
「そうだよ」
その眼尻が弧を描き、妖艶にカヤを流し見た。
美しいその仕草に、知らず、息が止まる。
だが次の瞬間、
「……ふっ、はは」
翠はいきなり俯いて笑いだした。
は?とカヤは眉を寄せる。
「ほんっとカヤって、単純と言うか何と言うか……」
堪えきれないように肩を揺らす翠を見て、一瞬で悟る。
カヤは、まんまとおちょくられたようだった。