御曹司は偽婚約者を独占したい
「は……っ、ハァ……」
駅につき、改札前で足を止めた私は高鳴る鼓動に手を当てた。それと同時に、涙が零れそうになる。
──私に、泣く資格なんてない。だってこれは、私が望んで招いた結果なのだから。
私が傷つく理由なんて、ひとつもないのだ。
「……帰ろう」
心の中で自分に言い聞かせて顔を上げると、一度だけ大きく息を吐いた。
見上げた空には大きな雲が浮かんでいて、眩しい太陽を隠していた。
「美咲さん……!」
──え?
すると、そのタイミングで後ろから声をかけられた。
弾かれたように振り向くと、ノブくんが走ってきて、息を切らせながら私の前で足を止める。