御曹司は偽婚約者を独占したい
 

「……美咲さんってさ、罪だよね」

「え?」

「別にぃ。俺はもう、綺麗さっぱり諦めることにしたからいいんすけど、そういう美咲さんの方こそ、どうなんですか?」


と、不意に予想外の質問をされ、ドキリと胸の鼓動が大きく跳ねた。

固まってしまった私を前に、再度大きな溜め息を吐いたノブくんは、ほんの少し声のトーンを下げて言葉を続ける。


「あの人のことだよ。なんか、変に揉めてるみたいな感じだったけど、あの後ちゃんと話はしたんですか?」


──〝あの人〟とは、もちろん、近衛さんのことを言っているのだろう。

私達の会話を聞いていたマスターは何かを察した様子でカウンターのほうへ消えていき、厨房には私達ふたりだけが残された。

心臓は、早鐘を打つように高鳴っている。

どうして急に、近衛さんの話を──と思ったけれど、恋愛の話繋がりで、ノブくんは私に尋ねたのだ。


「あのスーツイケメンと、ちゃんと仲直りしたんすか? しばらくパレットにも来てないみたいだけど……って、まぁ。その様子を見たら、大体想像はつくけどさ」


黙り込んでしまった私を前に、ふぅ、と短い息を吐いたノブくんは、自身の腕時計を確認した後で、再び静かに口を開いた。

やっぱり、ノブくんは近衛さんとのことを言っているのだ。

コーヒーショップで会ったときに、ノブくんは私が近衛さんのフィアンセだと聞かされたから、未だに私達を恋人同士だと思っているのだろう。

 
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