御曹司は偽婚約者を独占したい
「でも、どうしてノブくんは私達が揉めてるって……」
揉めてるって、気づいたの?
けれど、すべてを口にする前に、バツの悪そうな顔をしたノブくんに思いもよらないことを告げられる。
「俺が言うのもなんだけど……あの人、見かけによらず、良い人だと思うよ」
「え……」
「あの日……俺はまだ、心の整理ができてなかったから、美咲さんに本当のことを言えなかったんだけど……」
そこまで言って口籠ったノブくんは、視線を手元へと落とした。
ノブくんの言う、あの日とは、近衛さんと別れてノブくんが私を追いかけてきてくれた日のことだ。
「実は、あのとき俺に、美咲さんを追いかけるように言ったのは、あの人なんだ。わざわざ俺がいたコーヒーショップまで走ってきて、美咲さんを『家まで送ってほしい』って頼んできた」
ノブくんが、思い切ったように顔を上げる。
かたや私は、思いもよらない話しに、今度こそ言葉を失った。
近衛さんが、私を家まで送るように、ノブくんに頼んだ?
それは一体、どういうことなのだろう。
「あの人、言ってたよ……」
『さっき、君に偉そうなことを言ったばかりなのに申し訳ない』
『だけど今、君以外に頼める人間がいないんだ』
『俺の代わりに美咲を、家まで送り届けてほしい』
『またいつどこで、あの男が現れるかもわからないから──』
そう言うと、近衛さんはノブくんに頭を下げたということだ。
だけど私は、近衛さんが頭を下げている姿はまるで想像できなくて、ノブくんが私をからかう嘘を吐いているのかとさえ、思ってしまった。