御曹司は偽婚約者を独占したい
 

「あの人と、あの後、何があったのかは知らないけどさ。変な意地張ってないで、さっさと仲直りしたほうがいいんじゃない?」

「でも……」

「結局、頭で難しいこと考えたって、行動することでしか自分の願いは叶えられないんだし。行動する前に諦めたら、のちのち後悔することになるかもしれないよ?」


そう言うと、ノブくんは再び、自嘲するように笑ってみせた。

そうして、手元のペンケースを鞄にしまい入れながら、再度、自身の腕時計を確認する。

かたや私は、呆然と立ち尽くしていることしかできなかった。

まさか、あの日の出来事に、こんな事実が隠されていたなんて思いもしなかったのだ。

どうして近衛さんは、私のことをそんなふうに気にかけてくれたのだろう。

もう頭の中はグチャグチャで、自分の心臓の音だけが、やけに耳に響いている。

……私はてっきり、近衛さんは私に対して腹を立てているだろうと思っていた。

それなのに彼は、あんなふうに別れたあとでも私のことを心配してくれたんだ。


「まぁでも、婚約してるくらいだし、些細な喧嘩なのかもしれないけどさ」


言いながら、ノブくんは机の上に置いていた鞄を背負い直した。

ああ、そうだ。ノブくんは未だに、私が近衛さんの婚約者だと思っているのだ。

だからノブくんは、私に意地を張らずに仲直りをしろと言ったんだ。

だけど、そもそも私と近衛さんは婚約中どころか、知人とも呼べない間柄だった。

仲良く連れ立って歩くような相手でもないし、ましてや、〝仲〟と呼べるような繋がりがあるわけでもない。

 
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