御曹司は偽婚約者を独占したい
「今の君から見た、俺にあった一杯を、お願いしたい」
「え……」
いつもなら、決まりごとのように『ブレンドをひとつ』と言うのに、今日は違う。
何より、たった今言われた彼の言葉は、二週間前、私が彼の家で話したことを彷彿とさせて困惑せずにはいられなかった。
「今の私から見た……あなたに合う一杯を、ですか……?」
「……ああ」
近衛さんは、私がした私の父の話を覚えていたのだ。
たった二週間前のことなのだから、覚えていて当然といえば当然なのかもしれないけれど、まさか彼にこんな注文をされるなんて思ってもみなかった。
同時に、彼と過ごしたあの時間は夢ではなかったのだと暗に告げられ、身体の奥が熱くなった。
──ああ、ダメ。 たったこれだけのことなのに、嬉しくて泣きそうだ。
近衛さんの中に、ほんの少しでも私という存在が残っているのかと思ったら、嬉しくて、たまらなかった。