御曹司は偽婚約者を独占したい
 

「……甘い」


ぽつりと零された言葉に、鼓動が跳ねる。


「だけど、その甘さの中に深いコクと癖になる苦味があって……思わず、顔が綻ぶ味だ」


そう言うと、近衛さんは言葉の通り柔らかに微笑み、ゆっくりと私を見上げた。

黒目がちな彼の瞳に見つめられると、いつだって胸は高鳴り、彼への想いを募らせる。


「……カフェ・ラテは、父に淹れてもらったあの日から、作った回数が一番多いもので、私が一番自信を持って出せる一杯でもあります」

「それを何故、今、俺に?」

「近衛さんは、いつもポーカーフェイスで、この席に座っていたから……。だから、あなたが笑顔になる一杯を、お出ししたかったんです」


それはもう、『彼に合う一杯』ではなく、『今の私が、彼に飲んでほしかった一杯』だったと言ったほうがいいのかもしれない。

だけど今、どうしても彼にこの一杯を飲んでほしかった。

彼を笑顔に変えたあとで、どうしても伝えたいことがあったのだ。

 
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