御曹司は偽婚約者を独占したい
「お支払いは……いつも通りカードでよろしいですか?」
「はい、これで」
差し出されたカードを受け取って機械に通す。
それを彼に返せば一瞬だけお互いの指が触れ合って、心臓が小さく跳ねた。
反射的に顔を上げると目が合って、胸の奥がキュウっと小さな悲鳴を上げる。
何故か彼を前にすると、緊張せずにはいられない。
「あ、ありがとうございま──」
「気をつけたほうがいいのでは?」
「え……?」
「さっきの話です。マスターの言うとおり、大丈夫だと高を括っていて、何かあってからじゃあ遅いのではないかと思いまして」
けれど、唐突に開かれた彼の唇は、思いもよらない忠告を私に告げた。
彼らしい、とても紳士的な言葉遣いで、一瞬、なんのことを言われたのかわからなかった。
それでもすぐに店長との話を聞かれていたのだと気がついて、ドクリと大きく鼓動が揺れる。