御曹司は偽婚約者を独占したい
 

「それ、は……」

「怪我をしたり、危ない目に遭ってから後悔したって遅いと思いますよ」


どこか他人行儀にも聞こえる物言いだ。

それでも彼の瞳は真剣そのもので、私を心から心配してくれているのだということが伝わってきた。


「あ、ありがとうございます。でも……相手も大切なお客様ですし、失礼があっては……」

「なるほど。それなら、お客様には何をされても文句はないということですね?」

「そ、そういうわけではないですけど……っ」


急に言葉の強くなった彼に対して、返事はしどろもどろになった。

口籠ったあとで「申し訳ありません」と呟いてから俯けば、今度は小さな溜め息が落ちてくる。


「……少し、言葉が過ぎました。ただ、楽観的に考えているのは危険だと思っただけです。自分で思っている以上に、あなたは魅力的ですから」

「え……」


今度は本当に、何を言われたのかよくわからなかった。

再び顔を上げると目が合って、フッと息を零すように笑った彼に見惚れてしまう。

その笑顔は酷く蠱惑的で、穏やかで丁寧な彼の言葉とは正反対にも思えた。

 
< 15 / 143 >

この作品をシェア

pagetop