御曹司は偽婚約者を独占したい
「実際、僕はいつも、あなたが淹れてくれるコーヒーに癒やされてますよ」
「コ、コーヒー……?」
「ええ。あんなに美味しいコーヒーを淹れられるあなただ。魅力的でないはずがない」
まるで息をするかのように、サラリと甘い言葉を吐いた彼を前に思わずゴクリと喉が鳴る。
だけど今のは総括すると、コーヒーが美味しいという話でしかなくて……。
まぁ、そうか。そうだよね、そういうこと。
つまり、魅力的なのは私ではなく私が淹れたコーヒーだということだ。
理解してしまえば嬉しいような落胆したような、複雑な気持ちになる。
「あの……その、ありがとうございます」
「いえ、思ったことを言ったまでですから。それに、そもそも、つまらないなんて言う男のほうが、つまらない人間です。そんなくだらない過去の男の言葉なんて真に受けないほうがいい」
「え……っ」
けれど次の瞬間、再び意表を突かれた。
コーヒーが美味しいという話でしかないと思ったのに、とんでもないオマケがついてきた。
先ほどのマスターに話したことは、すべて聞かれていたのだ。
よくよく考えてみればそうだろう。クロスケさんの話を聞かれていたなら、元カレの話も聞かれていて当然だ。
すべてを悟った私の顔は、耳まで一気に熱くなった。