御曹司は偽婚約者を独占したい
「あ、あの……っ、その話は──!」
「今日も美味しいコーヒーをありがとう。ご馳走様」
「……っ」
形の良い唇が、私の言葉をさらってしまう。
そっと目を細め、口端を上げて笑う彼はやっぱり酷く艶やかで、むせ返るような色気を放っていた。
こんなに彼と話をしたのは初めてだったけれど、紳士的な雰囲気とは裏腹に思えて、違和感を覚えずにはいられない。
彼と話しているだけで、まるで彼の甘い指先で、背中を直に撫でられたような気分になった。
「それじゃあ」
けれど、こちらの思いに触れる素振りも見せない彼は、踵を返すと扉を開けて出ていった。
その背中を見送ったあと、ふとカウンターへと目を落とすと……。
「あ……っ」
そこには、いつも彼が読んでいる革製のカバーがついた本が置かれていて目を見張った。
あの人の忘れ物だ……!
今から追い掛ければ、まだ間に合うだろう。