御曹司は偽婚約者を独占したい
「そ、そんなのっ。お前だって今、俺に暴行してるじゃないか……っ」
「こっちは正当防衛だ。そっちがその気なら、法廷で争ってもいいぞ」
クロスケさんがあげた抗議の声は、彼の冷静な言葉に一蹴された。
そして捻り上げた腕を宙に放るように離すと、ようやく解放された私の肩を引き寄せる。
「腕、痛かっただろう。悪い……もっと早く手を離させるべきだった」
「い、いえ……」
甘いムスクの香りが鼻先をくすぐる。
耳に触れた優しい声に、身体が安心感に包まれた。
悪い、だなんて、彼が謝るようなことをしたわけではないのに。
肌触りの良いスーツと熱い腕に抱き寄せられて、心臓が早鐘を打つように高鳴った。
「ほ、法廷って……っ。お前、まさか弁護士か何かかよ……っ」
「さぁな。お前に答える義理はない。だが──今後、彼女……美咲に近づくようなことがあれば、そのときは容赦はしない。法廷ででもなんでも、とことんお前を追い詰めてやろう」
「え……っ」
静かに告げられた彼の言葉に、クロスケさんは顔色を青くして固まった。
思わずキュッ……と彼のスーツを掴めば、私を抱き寄せる彼の手に力がこもる。
そして次の瞬間、彼と目が合った。
それは一瞬にも感じたし……数秒にも感じるような、不思議な感覚を私に残した。