御曹司は偽婚約者を独占したい
「美咲は……俺の大事な、婚約者なんだ」
「え……」
「こ……婚約者!?」
「ああ。だから今後一切、彼女に触れることはもちろん、馴れ馴れしく名前で呼ぶことも、声をかけることも許さない」
有無を言わさぬ口調で言い放たれた言葉に、クロスケさんは声を張り上げ、私も目を見張った。
こ、婚約者って……。私の聞き間違えだろうか。
でも、クロスケさんも驚いているから間違いなく今、彼は私を婚約者だと言ったのだろう。
「だからもう、一刻も早く俺達の前から消えてくれ。何よりも大切な女性(ひと)が傷つけられて、心穏やかでいられるほど俺も人間が出来ていない。お望みなら、このままお前を警察に突き出してやってもいいけどな」
「ひ……っ‼」
低く、地を這うような言葉に慄いたクロスケさんは、とうとう逃げるようにその場を立ち去った。
そんなクロスケさんの姿が完全に見えなくなったあとで、窓際の彼は私を抱き締めていた腕を静かに離す。
今の今まで抱きしめられていた温もりだけが身体に残って、なんだか寂しさを覚えてしまった。