御曹司は偽婚約者を独占したい
「君は魅力的なんだから、自覚して、もっと気を付けろってことだ。今みたいなことが起きても、いつでも俺が助けてやれるってわけじゃない」
「……っ!」
言いながら、再び伸ばされた腕が背中にまわされ、抱き寄せられた。
厚い胸板に頬が触れて、鼓動がドキリと大きく跳ねる。
「……怖かっただろう。それなのに、話の通じないあの男を相手に、よく断りを入れられたな。偉かった。もう大丈夫だから」
彼の温かい手が子供をあやすようにトン、トンと私の背中を撫でるから、つい目頭が熱くなった。
「す、すみません、私……」
泣いたら彼のスーツを汚してしまう。
そう思って離れようとした私を、彼はより強い力で抱き寄せて離してはくれなかった。
「勝手に婚約者だなんて言って悪かった。ダメ押しでもああ言っておけば、アイツも諦めるかと思ったんだ」
「あ……」
……そうか。そうだよね。あれは、彼の優しさだったんだ。
そう思うと余計に申し訳なくなって、私は年甲斐もなく鼻をすすった。