御曹司は偽婚約者を独占したい
「だから私は父のように、誰かの身体と心を温めることのできる……そんな一杯を淹れられるバリスタに、なりたいんです」
夢を抱き、高校を卒業後に家を出て、カフェ・製菓・調理学部のある専門学校に進学した。
その在学中にパレットに出会い、マスターのご厚意もあってアルバイトを経て就職をした。
まだまだ力不足だから毎日が勉強の日々だけれど、好きなことに携われるのはとても幸せなことだと思うし、充実もしている。
「あのお店……パレットのマスターが淹れるコーヒーの味は、父の淹れたコーヒーの味とどこか似ているんです。だから、今はそんなマスターのもとで修行をさせてもらっています」
近衛さんは褒めてくれたけれど、私が淹れるコーヒーは、まだまだ父やマスターの淹れるコーヒーの味には程遠い。
今は、毎日が勉強だ。
コーヒー豆の管理や、微妙な湿度や温度調整。
たくさんのことを学んで、いつか一人前になれたら、どんなに小さくてもいいから自分のお店を持ってみたい。
そこで偶然立ち寄ってくれた誰かの身体と心を温められる、そんな一杯を提供するのが、今の私の夢なんだ。