御曹司は偽婚約者を独占したい
「明日はお互いに休みなんだし、昼過ぎまで寝ていても問題ない。それで起きたら、パーティーで着るドレスを買いに行こう」
「で、でも、私、お金の持ち合わせが……」
「持ち合わせなんていらない。俺がすべて用意するに決まっているだろう。当たり前のことを聞くな、これからは君に必要なものはすべて、俺が用意する」
キッパリと言い切った彼は、私の頬に手を滑らせた。
有無を言わさぬ返答に、私は言葉を返すこともできなかった。
「それで時間が余ったら、明日は美咲のオススメのコーヒーでも飲みに行こう」
トクリと胸が鳴ってしまったのは、明日も彼と一緒にいられることに嬉しさを感じている自分がいるからだ。
──ああ、もうきっと。後戻りはできない。
私は彼に、どうしようもなく惹かれている。
絶対に手の届かない人だとわかっているのに……。
私は彼に、恋をしてしまったのだと、今、ようやく自覚した。
「美咲?」
不意に睫毛を伏せた私を不思議に思ったのか、彼が穏やかな声で私を呼んだ。
誘われるように顔を上げた私は、綺麗な黒い瞳を見つめて心を決めると、ゆっくりと口を開く。