御曹司は偽婚約者を独占したい
「ここ、座ってもいいですか?」
「うん、どうぞ。それ、エスプレッソ? ここのエスプレッソ、すごく美味しかったよ」
「え、ほんと? ラッキー」
話しながら、私は立ち上がりかけた椅子に座り直した。
ノブくんがいるなら、とりあえず追加の飲み物を頼む必要もないだろう。
「美咲さんは? 頼まないの?」
「あ……うん。私はもう二杯も飲んだし、そろそろ待ち合わせの相手も戻ってくる頃だと思うから……」
今から注文をしてすぐに近衛さんが戻ってきたら、席を立ちにくくなってしまう。
それに、もう二杯も飲んでしまったし、喉が渇いているわけでもない。
「ふぅん。もう二杯も飲んだってことは、結構長い時間待ってるの?」
「そんなことないよ。それより、ノブくんはどうしたの? 確か今日の夕方から、パレットのシフト入ってたよね?」
曖昧に笑ったあとで尋ねると、ノブくんは大きな溜め息を吐いて項垂れた。
「それがさぁ〜、聞いてくださいよ〜」
なんでも、昨日のバイトが終わったあと、友達の家に泊まって、月曜日に提出しなければいけないレポートを手伝ってもらっていたらしい。
けれど、その代償として、その友達の彼女への誕生日プレゼント選びを今まで銀座で手伝わされていたんだとか。
友達の彼女は年上らしく、背伸びをしてブランド品を……と思って銀座に繰り出したものの、結局何がいいのか決められずに、お開きになったとのことだ。