御曹司は偽婚約者を独占したい
「もうさー、その彼女が色々好みが細かいらしくて、選ぶのに疲れちゃって。俺はこれからバイトだし、また次の機会にーって逃げてきたとこ」
「ふふっ。お疲れ様。パレットに着いたら、マスターに元気が出る一杯を淹れてもらったらいいよ」
「そうします〜。……でも、今日は美咲さんいないし、マスターの一杯飲んでも、あんまりやる気出ないかも」
頬杖をつきながら、様子を窺うようにこちらを見たノブくんの言葉に一瞬目を丸くした。
けれど、すぐにからかわれたのだと気がついて、「こら!」と小さく息を吐く。
「年上を、からかわないでよねー」
「……別にぃ、からかってないんすけど。実際、昨日は完徹して寝不足だから、さすがに簡単には元気でないし。だから美咲さんとシフト重なってたら、本当に気合い入ったんですよ」
溜め息混じりに呟かれたノブくんの言葉に、うっかり昨夜のことを思い出してしまった。
私も昨日は完徹して──って、ダメダメ。 ダメだ、忘れようとすればするほど思い出してしまう。
「……美咲さん、なんか顔赤くない?」
「えっ⁉」
「もしかして、風邪引いた? 昨日は雨だったし、身体冷えたんじゃないですか?」
言葉と同時に、正面から伸びてきた手が額に触れた。
大きな手は近衛さんの繊細な指を彷彿とさせて……また、余計なことを思い出させる。