御曹司は偽婚約者を独占したい
「だ、大丈夫! 全然、元気だから!」
「えー、じゃあ、なんで顔赤くなってんの? なんか変なものでも食べたんじゃ……っていうか、え。美咲さん、昨日と服同じじゃない?」
けれど、額から手を離したノブくんは、突然訝しげに眉根を寄せた。
不意を突かれた私は、更に頬を赤く染める。
昨日はノブくんとのシフトを終えたあと、近衛さんと会って……。
それで、彼の家で一夜を過ごして買い物に出たから、服を変えることはできなかった。
雨に濡れた服と下着も、乾燥機のおかげで朝には乾いていたし……。
近衛さんと出掛けるということだけで頭の中はいっぱいで、昨日と同じ服を着ていることを、誰かに指摘されるとは思ってもみなかった。
「こ、これは、その……。服が、ね? 色々あって、他に替えがなくって」
我ながら、苦しすぎる言い訳だ。
慌ててコーヒーを飲んで誤魔化そうと思ったら、コーヒーカップの中は空だった。
こんなことなら、三杯目を頼んでおくべきだった……。
「……そういうの、マジでズルいよ」
「え?」
「そりゃあ、美咲さんが、俺のことなんとも思ってないことくらい知ってたけど」
そのとき、突然声を震わせたノブくんは、手元のカップに目を落とした。
思わず目を丸くした私を前に、ノブくんは再びゆっくりと顔を上げた。