御曹司は偽婚約者を独占したい
 

「ノブくん?」


思い詰めたような表情に、一瞬、息の仕方を忘れてしまう。


「なんなんだよ、ほんとに。っていうか、もう! この際だから言いますけど。俺、美咲さんのこと、ずっと前から──」

「──おまたせ」


けれど次の瞬間、艶のある声が何かを言いかけたノブくんの言葉を切った。

弾かれたように振り向くとスーツ姿の近衛さんが立っていて、思いがけず固まってしまう。


「すまない、待たせたな」

「え……あ……、いえ……! お、おかえりなさい! ……お疲れ様でした」


焦って返事をしたら、つい声が大きくなって、慌てて自分の声をひそめた。

ここを出ていくときは間違いなく私服姿だったのに、今、目の前にいる彼は、普段パレットに来店するときと同じ品の良いスーツに身を包んでいる。


「あの、なんでスーツ……」

「ああ、今日のように急用でなにかあったときのために、本社の秘書室にも数着スーツを用意してあるんだ」


つまり、頼まれた書類を取りにルーナの本社に寄ったときに着替えたのだろう。


「書類を届けたあとで、一度ルーナの店舗には立ち寄ったのだけれど──本社には戻らなかったから、着替えられなかった」


ルーナの店舗には立ち寄った? 今終えてきた仕事の要件のためなのだろうか。

彼の言葉を疑問に思いながらも、立ち入るのもおかしな話だと考えた私は、「そうなんですね」と、無難な相槌を打った。

 
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