御曹司は偽婚約者を独占したい
 

「お仕事、お疲れ様でした」

「……ああ、ありがとう。それで──そちらの彼は?」


そのとき、近衛さんの視線が私の向かいに座るノブくんへと移された。

相変わらず、店内はコーヒーの芳醇な香りに包まれている。

店員さんの接客の声やレジの音。 カチャカチャと食器のぶつかる音や、お客さんたちの雑談の声が、まるでBGMのように時間とともに流れていた。


「……あ、ご紹介が遅れてすみません。彼は私の勤め先のカフェで一緒に働いている──」

「アンタ、なんなんだよ」


けれど、その穏やかな時を断ち切るように、ノブくんが険のある声を出した。

突然のことに驚いて目を見張った私は一瞬固まってしまったけれど、すぐに我に返ると慌ててノブくんを静止した。


「ちょ、ちょっと、ノブくん! そんな言い方──」

「俺は、美咲の婚約者の近衛というものだけれど。君は……ああ、そうだ。パレットで働いている子か。いつも〝俺の〟美咲が、お世話になってるね」


次に私の言葉を切ったのは、近衛さんだった。

思いもよらない言葉に驚いて彼を見上げると、近衛さんはそっと目を細めて微笑んだ。


「ちょ……ちょっと、近衛さ──っ!」


咄嗟に、椅子を鳴らして立ち上がる。

けれど、どう立ち振る舞ったら良いのか迷っているうちに、ノブくんが再び口を開いた。

 
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