初恋をもう一度。【完】
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あの第2音楽室での一件から、1週間が経った。
わたしと鈴木くんは、あれ以降話をしていない。
わたしは放課後毎日、部活に出るついでに第2音楽室を覗いていたけれど、あの日以来、彼が現れることはなかった。
クラスでも今まで通り、特に絡むこともない。
席は教室の対角線みたいに遠いし、鈴木くんはいつだって人に囲まれて笑っているから、わたしが話しかける隙もない。
いわゆる、人種が違う、というやつだ。
人気者の彼と、日陰のわたし。
だから、わたしと急に親しく話したら、彼が周りから変に思われるかもしれない。
教室での会話は避けた方がいいと思う。
それに……。
あの日ピアノを弾いていた鈴木くんと、教室での賑やかな彼は、なんだか別人みたいに違って見えた。
もしかしたら、あの日わたしに見せてくれた姿が、鈴木くんの本当の顔なのかもしれない。
それを、わたしだけが独り占めしている。
そう思えば思うほど幸せで、だから教室でも話したいなんて、全く思っていなかった。