初恋をもう一度。【完】
昼休み、給食を食べ終えてお手洗いに行った。
5時間目は理科の授業で、北校舎にある化学室に移動する。
あそこは日が当たらなくて冷えるから、早めにトイレを済ましておいたのだ。
教室に戻ると、入り口で、ちょうど出てきた誰かと軽くぶつかった。
「いたた……あ、ごめんなさい」
謝りながら顔を上げると、目の前に立っていたのは鈴木くんだったから、心臓が飛び出そうになった。
こんなに近くで顔を見たのはたぶん初めてで、その近さを意識したら、かっと頬が熱くなった。
「ううん、大丈夫だよ」
鈴木くんはにっこりと笑った。
わたしに笑顔が向けられたのはあの時以来で、とても嬉しくて、胸がどうしようもなく高鳴ってしまった。
「な……田崎こそ、大丈夫?」
一瞬「奈々ちゃん」と呼ばれるかと思ったのに。
あの時そう呼んでもらえて、すごく嬉しかったのに。
鈴木くんは「田崎」と苗字で呼んだ。
少し寂しい。
……でも、しかたない。
わたしのことを「奈々ちゃん」なんて呼んでいるのを誰かに聞かれたら、話がややこしくなる。
「……うん、大丈夫。ありがとう」
胸にちくりと走る痛みを飲み込んで、なんとか笑顔を作って返した。