初恋をもう一度。【完】
6月の終わり。
今日はついに合唱コンクールだ。
恥ずかしい話、緊張で朝からおなかが痛くてしかたない。
だって、大勢の人の前でピアノを弾いたことなんて、今まで一度もないもの。
コンクールのトップバッター、1年生の1組が壇上に上がった頃、わたしはついに、会場である体育館を、おなかをおさえながら抜け出した。
でも、おなかが痛いと言っても、実際おなかを壊しているわけではないから、トイレには行かずに外の空気を吸いに行った。
あのまま会場にいて他の人の上手なピアノを聴いていたら、プレッシャーで吐いてしまいそうだったから。
体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下の隅に座って、わたしは大きくため息をついた。
あーあ、合唱の伴奏なんて、やっぱり断ればよかった。
ピアノを弾くのはもちろん大好きだ。
でも、人に聴いてもらうために弾いてるわけじゃない。
習ってもいない自己流のへたくそなピアノを、今から大勢の人の前で披露しなきゃいけないなんて。
なんの罰ゲームなんだろう。
できることなら逃げ出してしまいたい。
まあ、今さらそうもいかないのはわかっている。