初恋をもう一度。【完】
しばらくの間ぼんやりと空を眺めたあと、わたしはもう一度大きくため息をついた。
そろそろ戻らないと、1年生達が終わったら、次はわたし達2年生の番だ。
緊張をほぐすために、何度か深呼吸をした。
渋々立ち上がって、体育館へと引き返す。
…あ、この曲、去年歌ったなあ、懐かしい。
閉め切られた体育館からは、1年生のどこかのクラスの合唱が小さく漏れていた。
……あれ?
一瞬聴こえたピアノが、なんとなく鈴木くんのピアノに似ている気がしたのだ。
と言っても、小さくてよく聴こえないし、もちろん鈴木くんは今壇上になんているはずもないから、まあ気のせいだろう。
あーあ。
わたしも鈴木くんみたいに弾けたら、こんなに緊張しなくて済むのに。
クラスの伴奏が誰かなんてどうでもいいのに、司会者はマイクで伴奏者の名前を発表する。
それはわたしのクラスの時も例外ではなくて、ステージに上がったら「ピアノ、田崎奈々さん」と呼ばれ、全校生徒に向けて渋々おじぎをした。
どうせわたしのことなんて誰も見ていないんだろうけれど、無数の視線が身体中に刺さったみたいで、気持ち悪くて変な汗が出た。
ピアノの前に座って、すうっと息を吸い込んだ。
緊張で少しだけ手が震える。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
だって、鈴木くんが一緒だから。